覚え書:「広島・長崎市長から手紙 ’13冬 新しいリーダーたちへ」、『毎日新聞』2013年01月09日(水)付。



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広島・長崎市長からの手紙 ’13冬
新しいリーダーたちへ

 原発安全神話が崩れ果てた今、核抑止力の安全神話が問われている。被爆地・広島と長崎の両市長は、核兵器による抑止力を強く懸念し、人類が生存していくには核廃絶しかないとの思いを手紙にしたためた。2013年の新年にあたり、松井一実広島市長と田上富久・長崎市長からのメッセージを紹介したい。

広島 松井一実市長
核は絶対悪と認識を

 我が国では昨年末に新しい政権が誕生しました。折しも昨年は、核保有国であるロシア、北朝鮮、フランス、中国などでも新しい指導者が登場し、アメリカではオバマ大統領がまもなく2期目のスタートを切ろうとしています。しかるに核保有国の為政者たちは、私たちの生きる世界を将来にわたって平和で安全なものにしようと考えているでしょうか。
 核兵器廃絶を求める被爆地の願いとは裏腹に、今なお世界には2万発もの核弾頭が存在し、「核兵器なき世界」を掲げたオバマ大統領でさえ核実験を繰り返しています。
 私は、このような現実を見るとき、世界の為政者たちこそ、核兵器は非人道的な兵器であり「絶対悪」であると認識しなければならないと考えています。そのためにも、為政者たちには、ぜひ、被爆地を訪問してほしいと思います。
 昨年、国連で発表された「核兵器を非合法化する努力の強化」を促すための共同声明について、唯一の被爆国である我が国が参加を見合わせたことは、被爆地として納得できるものではありません。とはいえ、我が国は、声明の根柢にある、核兵器が非人道的なものであることは認めているところであり、今後、核兵器廃絶を推進する関係国との連携を一層進めていくなかで、被爆地の思いを共有することを強く期待しています。
 被爆者をはじめ被爆地の市民は、原爆による破滅的な被害に苦しみながらも、その惨禍が決して繰り返されないよう核兵器廃絶を訴え、発信し続けてきました。この思いを広く共有していくための鍵は、つらく悲しい経験を踏まえ、地球上のすべての市民が未来に向けて相互理解を深めていくことにあります。その思いを胸に、被爆地広島の市長として全力で努力していく所存です。
 今なお、原爆の後障害に苦しんでいる多くの被爆者にとって、そして平和を願うすべての人にとって、この1年が明るく幸せな年となるよう心から願っています。

長崎 田上富久市長
廃絶が唯一の選択肢

20世紀は「戦争の世紀」と言われています。その20世紀の半ばに、米国で3個の核兵器が製造されました。そのうちの1個は実験に使われ、2個が広島と長崎に落とされたのです。核兵器を持ってしまった人類の歴史の始まりでした。
 いま21世紀の歴史をつくろうとしている核兵器保有国のリーダーの皆さんに、あらためて先入観を取り除いて直視してほしいことがあります。
 一つは、核兵器が人間にもたらす現実です。原子雲の下で起きた事実を知るために、ぜひ被爆地を訪れ、被曝の傷痕を見て、被爆者と話をしてください。
 二つ目は、核兵器の存在が世界を危険にさらしているという現実です。核兵器の抑止力理論に頼っている間に、核兵器を持つ国、持とうとする国が次々に出現し、それをなかなか阻止できない状況が続いています。国際テロ組織が核兵器を入手し、世界を人質に取る可能性も高まっています。
 最後の一つは、政府の力についてです。グローバル社会の中で、政府は簡単にお金と情報の流れをコントロールすることができない時代になりました。しかし、幸いにも世界から核兵器をなくす力を持っています。そのために必要なのは、核兵器保有国のリーダーの強い政治的な意思です。
 数多くのハードルを越えなければならない困難な道のりであることは間違いありません。しかし現実を直視するとき、廃絶だけが持国と世界を危険から守る唯一の選択肢であること明らかです。そして、各国のリーダーとしてそれを支持する多くの国民によって、“持ってしまった核兵器”をなくすことができれば、それは21世紀に、地球温暖化、貧困、飢餓など世界の課題の克服への扉を開くことにもなるはずです。
    −−「広島・長崎市長から手紙 ’13冬 新しいリーダーたちへ」、『毎日新聞』2013年01月09日(水)付。

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