覚え書:「異論反論 政権交代で原発政策も見直されました=雨宮処凛」、『毎日新聞』2013年01月23日(水)付。


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異論反論
政権交代原発政策も見直されました
寄稿 雨宮処凛

国論ではなく国民二分の恐れ

 政権交代から約1カ月がたった。
 1カ月前と比べ、この国が進む方向は大きく変わった。それは決していい方向には思えないわけだが、選挙の結果なのだから仕方ない。
 約1カ月前、総選挙を前にして、私はこの連載で「お任せ民主主義からの卒業を」というテーマで原稿を書いた。閉塞感が強まれば強まるほど蔓延する、「さっさと誰か決めてくれ。ただし自分の思い通りに」という思考停止。しかし、「強いリーダー」に「変化」を望むことは時に危険だ。はからずも、東日本大震災原発事故から初めての総選挙。私たちは、どんな社会を望むのか。そんな真摯な問いの果てに、一人一人が「お任せ民主主義」から卒業すべきではないのだろうか。そんな内容だ。
 選挙結果を前にして、愕然とした人も多いのではないだろうか。少なくとも、私はその一人だ。そうして迎えた政権交代安倍内閣は発足してすぐに原発政策を「脱原発」の方向からは大きく後退させた。
 原発新増設の容認。「30年代に原発ゼロ」方針の見直し。また、上関原発建設計画の凍結方針を白紙にし、再検討するという。
 脱原発の思いをもつ人(私も含む)にとっては苦々しいとしか言いようのない展開だ。しかし、推進派は大歓迎だろう。

ズタズタに破壊される立地自治体の人間関係
 そんな状況を見ていて思ったのは、原発がつくられた町のことだ。さまざまな利権や雇用の問題が絡む中、住民は反対派と賛成派に二分される。原発さえなければいがみ合うこともなかった人々がいがみ合い、それは地域の人間関係をズタズタに破壊する。
 昨年末、東京の日比谷公会堂で開催された集会で、大間原発の建設に反対し、建設予定地の土地を売らずにログハウスを建てた女性の娘さんの話を聞く機会があった。
 原発はいらない。その思いを行動に移したことで生まれた数々のあつれき。小さな町で孤立し、親しい人のお葬式にも呼ばれない。一方で、原発に表立って「反対」できない人たちにもそれぞれの事情がある。「子どもの雇用」や「自分の得意先」など、さまざまな形で原発を取り巻く経済に取り込まれてしまっているからだ。
 多くの人が、心に傷を負っている。悪いのは「反対派」や「賛成派」ではないのに、いつの間にか問題はすり替えられ、個人への攻撃となってしまう。
 今、安倍内閣原発政策を見ていて思うのは、このままでは、日本全国で「原発立地自治体」に見られるような「対立」が露骨になるのではないかということだ。選挙前は、政権が「脱原発」を掲げていたことや世論に押され気味だった「推進派」が台頭してくることは目に見えている。
 「国論を二分する」と言われる原発問題だが、国論ではなく、この国の人々が二分され、取り返しのつかない対立にならないか、それが今、もっとも不安なことである。
あまみや・かりん 作家。反貧困ネットワーク副代表なども努める。「しばらく海外に行っていた間に生活保護引き下げの動きが進んでいました。受給者の多くは病気や高齢で働けない人。感情論で進むことに危機感を覚えます」。
    −−「異論反論 政権交代原発政策も見直されました=雨宮処凛」、『毎日新聞』2013年01月23日(水)付。

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