覚え書:「今週の本棚:20世紀遺跡 帝国の記憶を歩く=栗原俊雄・著」、『毎日新聞』2013年01月27日(日)付。
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今週の本棚:20世紀遺跡 帝国の記憶を歩く
栗原俊雄・著
(角川学芸出版・1680円)
「帝国の記憶」という副題がついているが、実際は忘却されたことの掘り起こしだ。空襲で亡くなった人たちの埋葬地、硫黄島に生き残った兵士のあいだで起きた出来事から、実態が報道されなかった地震や模擬原爆にいたるまで驚くべき歴史の細部ばかりだ。長野県の高原にある「文化柱」や、戦時ニュースを報じるラジオ塔など戦争の文化「遺跡」も紹介されている。いずれも現場を歩き、当事者たちに対する地道な取材にもとづくものである。
大文字の歴史ではなく、名もない庶民たちの声に耳を傾ける。大帝国の栄光の陰で被害を受け、長年苦しい思いをしたのはふつうの庶民だからである。
事件よりも、忘れ去られた人たちの物語が印象に残った。その代表例はシベリア抑留者であろう。司法も立法も行政もマスコミも、さらにはアカデミズムも抑留被害者に冷たかった。年々減少している生存者たちの証言を通して、茶者がいうところの「未完の悲劇」の知られざる一面が明らかになった。
記憶が風化し、戦争の恐ろしさが忘れられつつある今、ずっしりと胸にこたえる一冊だ。(競)
−−「今週の本棚:20世紀遺跡 帝国の記憶を歩く=栗原俊雄・著」、『毎日新聞』2013年01月27日(日)付。
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