覚え書:「今週の本棚・本と人:『東北発の震災論』 著者・山下祐介さん」、『毎日新聞』2013年03月10日(日)付。




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今週の本棚・本と人:『東北発の震災論』 著者・山下祐介さん
毎日新聞 2013年03月10日 東京朝刊


山下祐介・首都大学東京准教授=東京都八王子市で2013年2月21日、手塚さや香撮影
 (ちくま新書・924円)

 ◇震災を「自分の問題」にするために−−山下祐介(やました・ゆうすけ)さん

 副題に掲げた「周辺から広域システムを考える」に論旨は集約されている。広域システムは、インフラや流通網を張りめぐらすことで周辺の小さな社会を中心に従属させるものだ。「首都圏と東北という中心と周辺の関係性に加えて、東北の中にも周辺がある」という問題意識に基づき、「巨大化した広域システムが、周辺に置かれた被災者の主体的な復興を妨げているのではないか」と繰り返し問いかける。

 雲仙普賢岳の噴火(1990年代)や阪神大震災(95年)で被災者やボランティアを調査し、11年度末までの17年間は青森・弘前大で地域社会学の研究として過疎地に足を運んだ。

 震災直後、弘前市から岩手県野田村への支援の体制作りに奔走した。首都大学東京に移った現在は、福島県富岡町からの避難者が町の将来像や生活再建について語り合うタウンミーティングを支援する。2年間、深くかかわってきたからこその強い危機感が執筆に駆り立てた。

 被災の現場で目の当たりにしたのは、「行政頼みの住民」であり「国に依存する地方の体質」だった。地域の主体性を問う厳しい指摘だが、無論、被災地だけの問題ではない。国や経済、科学、専門家が何とかしてくれるという<人任せの風潮がこの震災では広く見られた>と、日本全体の構造を問題視する。

 本書では、地域によって異なる様相を呈した被災地の状況を精査し、その上で日本の近代化の中で東北が課せられてきた役割の変遷をたどった。「中心−周辺」の関係性を固定化した流れが浮かび上がってくる。

 近代化の検証は、必然的に原発の問題に及ぶ。原発は近代化が生んだ「中心−周辺」構造の典型だ。福島第1原発の事故によって、福島県内外への避難者は15万人を超え「自治体」「住民」の概念も自明ではなくなった。それまで所与とされていたものが震災で揺らいだはずなのに、依然として「中心」の視点で復興が進められることは、「地域社会の解体につながる」と警鐘を鳴らす。

 「2年たっても、私たちはいまだにあの震災の全体像を見通すことができていない。少しでも多くの人に主体的に理解し、自分の問題として考えてほしい」<文と写真・手塚さや香
    −−「今週の本棚・本と人:『東北発の震災論』 著者・山下祐介さん」、『毎日新聞』2013年03月10日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130310ddm015070171000c.html






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