覚え書:「今週の本棚:マス・イメージ論=吉本隆明・著」、『毎日新聞』2013年03月24日(日)付。
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今週の本棚:マス・イメージ論
吉本隆明・著
(講談社文芸文庫・1680円)
長らく絶版となっていた1980年代の代表作が、著者・吉本隆明の没後1年を機に再刊された。
鹿島茂の卓抜な解説によれば、著者は20世紀から21世紀へと向かう新しい時代の到来を「予感」し、新しい批評の方法でこの著作に挑んだ。そのため、発表当時は「熱心な読者でもその意図を計りかね」、「信奉してきた読者の多くが彼のもとから『離れた』」という。しかし、文学を少女漫画や歌謡曲、テレビCM等と同じ地平で、「『現在』という巨きな作者のマス・イメージが産みだしたもの」として論じるというコンセプトは、当時の若い世代の感覚にピタリと沿うものだった。
例えば、糸井重里や村上春樹、高橋源一郎らの作品世界に、吉本はテレビのチャンネル切り替えに似た「イメージ様式」を見て取った。「〈意味〉の比重を極端に軽くすることではじめて衝撃に耐えられる世界である」と。このようなイメージこそ、価値相対的で混沌とした「現在」の「全体的な喩」であり得た。
ポストモダンの思想がぶつかった課題に、いわば独立独歩の思考で渡り合った挑戦は、今読んでも十分スリリングだ。(壱)
−−「今週の本棚:マス・イメージ論=吉本隆明・著」、『毎日新聞』2013年03月24日(日)付。
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