覚え書:「書評:孤独な天使たち [著]ニッコロ・アンマニーティ [評者]楊逸」、『朝日新聞』2013年03月31日(日)付。




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孤独な天使たち [著]ニッコロ・アンマニーティ
[評者]楊逸(作家)  [掲載]2013年03月31日


■ぶつかりあう姉弟はやがて

 他人に共感できず、「自己愛性人格障害」と診断された14歳の少年、ロレンツォは、学校で仲間に恵まれず、孤独な日々を過ごしていた。しかし両親は、息子がたくさんの友だちに囲まれるようになってほしいと、塀が落書きでいっぱいの荒れた公立高校に入れて奮闘を続ける。
 ある日、一人の生徒がクラスメート数人を別荘でのスキーに招待するのを耳にして、ロレンツォは、親の期待に応えようとしたのか、自分も誘われてスキーに行く、と母に嘘(うそ)をついてしまった。
 スキーに出かける日、途中まで送ってくれた母と別れた後、ロレンツォは、誰も使っていない自宅マンション地下の物置部屋に、こっそりと舞い戻り、そこに籠(こも)って「スキーに行った」という時間を消化しようと企(たくら)むのであった。
 誰にも邪魔されず、自由気ままに過ごせるはずの一週間が始まって間もなく、思いもよらぬ招かれざる客−−異母姉のオリヴィアが現れる。それまで会うこともめったになかった2人が、いきなり地下の暗くて狭い物置部屋で向き合うことになる。昔は「信じられないほどきれいだった」オリヴィアは「空色のベッドの上に伸びた、黒っぽい色の染みのよう」に変わり果てていた。何が起きたのだろう。
 回避から始まり、憎悪の念を抱き、危うく殺しそうになるほどの喧嘩(けんか)までした。やがて姉を憐(あわ)れむようになり、助けてやらなければという強い姉弟愛が生まれる。そして10年後、オリヴィアの財布に、ロレンツォの電話番号を書いた紙が残っていたため、2人は衝撃の再会を果たす。
 9歳違いの姉と弟、それぞれに孤独を抱えながら、擦れ違い、そして激しくぶつかりあった。著者は迫力のある筆遣いで、半ば暴力的なぶつかりあいの凄(すさ)まじさを、生き生きと描いている。巨匠ベルトルッチ監督もきっとその描写力に魅せられて、9年ぶりに映画を作ったのだろう。
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 中山エツコ訳、河出書房新社・1680円/ 66年、ローマ生まれ。『ぼくは怖くない』など。
    −−「書評:孤独な天使たち [著]ニッコロ・アンマニーティ [評者]楊逸」、『朝日新聞』2013年03月31日(日)付。

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孤独な天使たち
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ニッコロ・アンマニーティ
河出書房新社
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