覚え書:「書評:昭和の洋食 平成のカフェ飯 阿古真理著」、『東京新聞』2013年4月7日(日)付。




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昭和の洋食 平成のカフェ飯 阿古 真理 著

2013年4月7日

◆料理と女性の変容捉える
[評者] 原田 信男  国士舘大教授。著書『江戸の料理史』『歴史の中の米と肉』。
 私たちが生きていくために不可欠な食は、本来的に個人のものではありえず、所属する集団に支えられてきた。
 人間の生活は実にさまざまな協業によって維持されるが、そのもっとも基本的な単位が家族である。そして食料の確保は男性、料理の提供は女性という家族内分業が永く当然なものとされてきた。しかし複雑で高度な発展を遂げた社会では、この家族のあり方に、さまざまな変容が強いられるようになる。社会的分業の細分化によって、家族単位で営まれてきた食に、大きな変化が生ずるようになった。
 それが昭和という時代に先鋭的に現れ始め、とくに家庭で育まれてきた伝統的な料理に、洋食という異なる食文化が入り込んできた。さらに女性の社会進出が進み、食品産業が多様化すると、料理自体が簡便化され、外食・中食が普及して、スタイリッシュなカフェ飯が人気を集めるようになった。
 もちろん、この間の事情は単純ではなく、とくに社会構造の変化に拍車がかかった昭和後期や平成に入ってからは、食の変容が著しく進んだ。
 著者は、その変化を、映画や「金曜日の妻たちへ」のようなテレビ番組、あるいは漫画「花のズボラ飯」や雑誌「すてきな奥さん」などに素材を求めて、ほぼ八十年にわたる家庭料理の変化を、丹念に描き出している。
 それは料理技術の伝承の問題から始まり、出来合いの惣菜(そうざい)やインスタント・レトルト食品の利用、さらには外食からスローフードに至るまで、女性の立場からの実に細やかな視点で、記述が展開される。なかでも興味深く思えたのは、専業主婦の母と自立する娘との対立で、これがあたかも一つの底流するテーマとなっている。
 本書で提示された家庭料理の変容自体も興味深いが、それ以上に面白かったのは、女性と料理の関わりで、むしろ現代女性史としても読まれるべき作品といえよう。
あこ・まり 1968年生まれ。ノンフィクション作家。著書『自由が丘スイーツ物語』など。
筑摩書房・1785円)
    −−「書評:昭和の洋食 平成のカフェ飯 阿古真理著」、『東京新聞』2013年4月7日(日)付。

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