覚え書:「メディア時評 見通しを検証する誠実さを=釈徹宗」、『毎日新聞』2013年04月13日(土)付。



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メディア時評
見通しを検証する誠実さを
釈徹宗 相愛大教授(宗教思想・人間学)

 新聞で、「仮説演繹法」を活用した報道ができないものだろうか。仮説−予測−検証というプロセスを繰り返す科学研究の一手法である。まず現在の情報やデータに基づき、将来に関するもっとも確からしい仮説や予想を立てる。次にこの仮説に事象を当てはめていく。うまく当てはまれば、仮説の妥当性の高さが確認できる。当てはまらない場合は仮説を修正していく。
 今であれば、アベノミクスの今後や衆院違憲判決への対応などやってみてはどうだろうか。アベノミクスならば、日本経済、世界経済への影響を数カ月や数年単位で予測し、定期的に予測と現実がどう合致したかしなかったかを検証するのだ。特に私が読みたいのは、仮説がうまくいかなかった場合の検証である。どこにミスや誤解があったのか、どんな不確定要素があったのかなどの分析は新聞にとって貴重なものになる。
 私は「あの出来事の、その後」を追跡する記事が好きである。きちんと「その後」を追跡した記事を読むと、なにか誠実な職人の仕事に出会えたような気分になる。たとえば、毎日新聞3月28日付朝刊の「維新国政進出から半年」にはそんな印象を受けた。我々は目新しい政策や政党の動きに目を奪われがちなので、この記事のようにある程度の期間で俯瞰し振り返る作業が必要であろう。記者の署名を見ながら「この人たちはずっと維新を追いかけているのだろうなあ」などと思いをはせた。
 朝日新聞(3月25日朝刊)では、「尖閣諸島の寄付金どうなった?」との追跡記事が掲載された。集まった寄付金の約14億2000万円を、東京都が基金にしたことを述べていた。この記事は、言及されなくなったもののしっかり見守らねばならない案件を思い出せてくれたのであった。
 一般に検証記事とは、こうした「あの件は適切に処理されたのか」「現時点までの経緯を点検する」など事象自体のその後を検証するものだ。他方、各紙とも、社会動向の予測や仮説を立てるところまではコラムなどでそこそこやっているが、それを検証する記事は少ない。もう少し踏み込まなければ、情報をベースにして構築される知恵は蓄積されないように思う。
 情報の消費スピードが増し、昨日のニュースが忘れ去られる時代だ。新聞が自らの見通しを検証する過程を読者に見せることは、知的誠実さのモデルを示すことにもつながるはずである。
(大阪本社発行紙面を基に論評)
    −−「メディア時評 見通しを検証する誠実さを=釈徹宗」、『毎日新聞』2013年04月13日(土)付。

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