覚え書:「書評:電力の社会史 竹内敬二著」、『東京新聞』2013年4月21日(日)付。
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電力の社会史 竹内 敬二 著
2013年4月21日
◆遅らせられた自由化
[評者]山岡 淳一郎 ノンフィクション作家。著書『原発と権力』など。
原子力、環境、エネルギー分野は関連し合っており、全体の政策的バランスを保つのは難しい。東電福島原発事故後、民主党政権は「二〇三〇年代原発ゼロ」を打ち出し、九電力の「地域独占」の見直しに踏みだした。ところが自民党の政権奪還で逆コースへ転じようとしている。昨夏の「国民的議論」を経て、いったい私たちは何に光を見いだそうとしたのか。エネルギー政策の本質とは何か。
そうした問題意識に対し、本書は、極めて良質な資料を提供してくれる。電力問題を二十年以上取材してきた著者は、日本の特殊な原子力推進体制や核燃料サイクル、自然エネルギー政策など、興味深いテーマに沿って社会史をつづる。
圧巻は電力自由化、発送電分離に関する記述だ。過去に何度も電力自由化の議論はおこなわれ、部分的に自由化が採用されたが、既得権にしがみつく電力会社は進行を遅らせた。その骨抜き行為が「多様なエネルギー産業の発展とイノベーション(技術革新)を邪魔していたのではないか」と著者は問う。
安倍内閣は発送電分離を閣議決定した。今後、電力会社から切り離されて「公共化」される送配電部門はきちんと中立性を保てるか。発送電分離の時期は先送りされないか。政権の本気度を見極めるうえでも、本書は大いに役立ちそうだ。
たけうち・けいじ 1952年生まれ。朝日新聞編集委員。著書『地球温暖化の政治学』など。
(朝日選書・1680円)
◆もう1冊
田口理穂著『市民がつくった電力会社』(大月書店)。ドイツ南部の市民が自然エネルギー電力会社を立ち上げた話。
−−「書評:電力の社会史 竹内敬二著」、『東京新聞』2013年4月21日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013042102000170.html