覚え書:「今週の本棚・新刊:『あのとき、文学があった 「文学者追跡」完全版』=小山鉄郎・著」、『毎日新聞』2013年04月28日(日)付。
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今週の本棚・新刊:『あのとき、文学があった 「文学者追跡」完全版』=小山鉄郎・著
毎日新聞 2013年04月28日 東京朝刊
(論創社・3990円)
著者は今年度の日本記者クラブ賞受賞が決まった共同通信のベテラン文芸記者(現在は編集委員兼論説委員)。1990年1月から94年5月まで、『文學界』に連載したコラムを一冊にまとめた。この時期の日本文学の話題を冷静に、こなれた文章でつづっている。取材した作家たちの言葉をふんだんに引用しながら、しばしば、自身の実感に照らし合わせて、温かいが鋭く批評する。資料的価値が高いのはもちろん、読み物としても随分と面白い。
テーマは多岐にわたっている。村上春樹作品の英訳、安岡章太郎の洗礼、村上龍と映画、野間宏の文学世界の特質。社の先輩だった辺見庸については、記者としての軌跡をたどり、芥川賞を受賞したばかりの小川洋子には詳しく来歴を語らせる。
文学賞とともに、訃報についての文章が多いのは、この二つが文芸記者の重要な執筆対象だからだろう。開高健死去時の夫人の言葉、中上健次の素顔、佐藤泰志の突然の自殺への当惑。桐山襲、李良枝、安部公房。抑えた筆致から、彼らの仕事への敬愛が伝わる。書中の言葉から拾えば、全編を通して「記者はひとり」の覚悟が脈打つ一冊だ。(重)
−−「今週の本棚・新刊:『あのとき、文学があった 「文学者追跡」完全版』=小山鉄郎・著」、『毎日新聞』2013年04月28日(日)付。
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http://mainichi.jp/feature/news/20130428ddm015070027000c.html