書評:山口由美『ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』小学館、2013年。




山口由美『ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』小学館、読了。本書は20世紀を代表する写真家の最後の仕事は『MINAMATA』(1975)。本書はスミスが水俣で過ごした3年間を、妻やアシスタントの証言をもとに、水俣での交友、撮影生活と思想、その人柄を明らかにする。

「写真を撮っている時間は少なかった」と水俣の人は言う。スミスは被写体との信頼関係を前提に自然な表情を写し取る。そして職人芸ともいえる紙焼き作業を経て連作する。写真には詩文やエッセイが添えられる……。それは所謂「組写真」といってよいだろう。

スミスが水俣を訪れたのは1971年、公害病認定から3年(発生の公式確認からは10年以上)。この時、水俣を訪れたカメラマンは単発的覗き見趣味取材がほとんど。それでも、世間にその悲劇を訴えたいと思う患者家族は協力を惜しまなかった。

スミスに限らず功名心は誰にもなくはない。しかし彼はそれから3年、水俣で過ごすことになる。写真のプロフェッショナルとしてだ。しかし、それは原田正純さんを想起させる「弱い方に立つ」立場である。

助手の石川武志は「ユージン・スミスが水俣に来ていなかったら、報道の写真は、もっと荒っぽくていいという考えのままだったと思う。つまり、どれだけ凄い被写体が撮れるか、ということ。でも、ユージンは違った」と証言する。

スミスが写真集に添えたメモ(信条)が印象的だ。

PHOTOGRPHY IS SMALL VOICE THAT CAN RIGHT NO WRONG,THAT CAN CURE NO ILLNESS, THAT CAN

なお、スミスの撮影した、有名な親子の入浴写真は現在では公開されていない。「水俣展」(96年)にその有名な写真は販促物に使われたが、雑踏で人々に踏まれるそれに両親はいたたまれなくなったという。ベンヤミンのいう複製技術時代の問題を考えさせられてしまう。









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ユージン・スミス: 水俣に捧げた写真家の1100日
山口 由美
小学館
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