覚え書:「書評:青い花 辺見庸 著」、『東京新聞』2013年06月23日(日)付。




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青い花 辺見庸 著

2013年6月23日


◆大災厄をさまよう魂
[評者]横尾和博=文芸評論家
 本書は現代の「黙示録」だ。文学はイメージであり、ビジョンである。瓦礫(がれき)と廃墟(はいきょ)をこれほどまでに鮮やかに、激しく描いた作品を私はほかに知らない。描かれた世界は大地震、大津波原発事故、戦争の惨禍にあるニッポンで、過去、現在、近未来が交錯する。ストーリーらしきものはない。ただ線路の上を歩く中年男の意識の流れを一人語りで綴(つづ)っていくだけだ。男はひたすら薬物「ポラノン」を求めて線路の上をあるいている。
 この男を災厄での死者、精神科の入院患者、はたまた夢の中の記述と、どのように考えても読者の自由である。そう考えると私たちは重苦しいトーンから解放される。私はコッポラの『地獄の黙示録』を想起した。ただ現代の私たちは「黙示録」のような終末への予言書をもちあわせていない。それが私たちの悲劇の始まりかもしれない。大地震原発事故。「黙示録」に示されたような事象を私たちは見てきた。しかしそこに語られている言葉には現象はあるが本質はない。
 作中の精神科病院のくだりや青い花の比喩(ひゆ)はロシアの作家、ガルシンの「あかい花」を下敷きにしている。「あかい花」は「世界のありとあらゆる悪が集まる」象徴だった。「青い花」の意味とはなんだろう。希望の喩か、幻覚の産物か。私は大災厄での死者の魂とうけとめた。極めつきの「震災文学」である。
 へんみ・よう 1944年生まれ。作家。著書『水の透視画法』など。
角川書店・1680円)
◆もう1冊
 辺見庸著『瓦礫の中から言葉を』(NHK出版新書)。石巻出身の著者が、死者たちに届く言葉とは何かを問う。
    −−「書評:青い花 辺見庸 著」、『東京新聞』2013年06月23日(日)付。

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