覚え書:「今週の本棚・この3冊:沖縄文化に触れる=俵万智・選」、『毎日新聞』2013年07月14日(日)付。



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今週の本棚・この3冊:沖縄文化に触れる=俵万智・選
毎日新聞 2013年07月14日 東京朝刊

 <1>神に追われて(谷川健一著/新潮社/品切れ)

 <2>ウミンチュの娘(今井恒子著/角川書店/1575円)

 <3>ああ、沖縄の結婚式!−−抱腹絶倒エピソード(玉城愛、にーびちオールスターズ編著/ボーダーインク/1470円)

 石垣島に移住して二年あまり。沖縄の文化に触れる三冊を選んでみた。手に取ったきっかけは、すべて石垣出身のバンド「きいやま商店」だ。メンバーおススメの映画が「スケッチ・オブ・ミャーク」。宮古島の人と音楽と神事を撮ったドキュメンタリーだ。神事を司(つかさど)る女性に興味が湧いて、『神に追われて』を読んだ。宮古島の根間カナという女性を中心に、人が神に見込まれ、やがて巫女(みこ)的な存在となってゆく過程が描かれている。民俗学者が紹介する宗教体験、としてたんたんと書かれているが、不可思議で霊的なできごとが、静かな迫力と深い説得力を持って迫ってくる。「私が南島通いをしてユタとかカンカカリヤと呼ばれる南島の巫女の入信のいきさつに並々ならぬ興味をおぼえたのは、人間的な烈(はげ)しい苦悩を通して、巫女たちの精神が形成されていることを知ってからのことである。」と著者は言う。普通の暮らしをしたいと思っても、神がそれを許さず、逃げおおせられなくなったとき、巫女は生まれるのだ。

 『ウミンチュの娘』は、「きいやま商店」のCDを買いにいった地元の山田書店のレジ横に、山積みしてあったので思わず手にとった。ひとことで言えば、石垣島出身の女性社長による熱血半生記。昭和三十二年生まれの著者が描く少女時代には、ドル通貨やダイナマイト漁、民間療法の瀉血(しゃけつ)などが出てくる。高校卒業後、上京し、就職、結婚……子育てをしながら勤めた会社が二度倒産するなどの波乱を経て、IT企業を起こす。その行動力と前向きさが痛快だ。

 最初の会社の社長が宮古島出身で、その母親がユタ。著者は会うなり「可愛い男の子が見えますよ」と言われ、予言通りに男の子を授かる。その息子が高校二年生のときに体調を崩し「まぶいぐみ」という祈祷(きとう)を受けるために石垣島に戻る場面もある。起業家の半生記に、そういう話がちりばめられているところが、いかにも沖縄だなあと思う。

 三冊目は『ああ、沖縄の結婚式!』。「うちなー披露宴は、誇るべき沖縄独特の文化です。」と言う著者は、結婚式の司会歴11年。披露宴でのさまざまな興味深いエピソードが紹介されている。とにかく余興にかける情熱が、すごい。ビデオを使ったものなども、凝りに凝る。「きいやま商店」も、しょっちゅうメッセージの撮影協力をしていて、そんなに結婚式があるのかと訝(いぶか)しく思っていたが、本書を読んで納得した。

 彼らを窓にして、自分は沖縄を体験しているのだなあとあらためて思う。
    −−「今週の本棚・この3冊:沖縄文化に触れる=俵万智・選」、『毎日新聞』2013年07月14日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130714ddm015070034000c.html





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