覚え書:「書評:落語で味わう江戸の食文化 林秀年著」、『東京新聞』2013年07月14日(日)付。
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落語で味わう江戸の食文化 林秀年 著
2013年7月14日
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◆演目眺め腹いっぱい
[評者]八木忠栄=詩人・文筆家
食べ物や酒が出てくる落語は多い。寄席でおいしいものが出てくる落語を聴いた帰りには、じっくり飲食したくなる。たとえば、出来のいい「青菜」を聴いた帰りには、鰯(いわし)の塩焼きでいいからおいしい日本酒を一杯やりたい。「目黒のさんま」の後には、脂したたる焼きたてのさんまにかぶりつきたくなる。
江戸期に作られた落語には、当然江戸の食文化が反映している。その大半は庶民が食べていたものであり、高級で手のこんだレシピなどはない。平成のわれわれの食卓と、それほど大差はない。
本書は、よく知られた「時そば」に始まって「寄合酒」に到(いた)るまで、六十篇以上の落語に登場する飲食物を、噺(はなし)を紹介しながらとりあげている。つまり落語を楽しみながら、江戸の食文化を具体的に味わえる仕組みになっている。さらに当時の庶民の飲食の様子を伝える図譜・図絵が豊富に挿入されていてありがたい。
落語の飲食に関する著書は従来もあったが、文献による貴重な図版をこれだけ多く併載した例はない。江戸の食文化の一端を覗(のぞ)けるだけでなく、落語の背景も現前してくる仕掛けになっている。
既刊の『落語で辿(たど)る江戸・東京三十六席。』『落語で知る人生の知恵』と併せ、著者の落語三部作となる。
読み終わって、さて、今から私は何を味わいに、どこへ出かけようか?
はやし・ひでとし 1949年生まれ。文筆家。
(三樹書房・1890円)
◆もう1冊
『落語のいき(2)食と旅噺編』(小学館)。桂文楽「時そば」などを収めたDVDブック。江戸の食も解説。
−−「書評:落語で味わう江戸の食文化 林秀年著」、『東京新聞』2013年07月14日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013071402000169.html