覚え書:「今週の本棚:幸福の遺伝子=リチャード・パワーズ・著」、『毎日新聞』2013年07月21日(日)付。
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今週の本棚:幸福の遺伝子
リチャード・パワーズ・著
(新潮社・2940円)
たとえば、同じ猛暑の環境にいても、体感温度は人それぞれ。人間の幸福度もそれとちょっと似ているかもしれない。そして結局は「体感幸福度」が高ければ、いくら物理的な条件が悪くても、その人は幸せなのだ。
本書は、いまや米国の文学界の大黒柱であるポストモダンの雄、リチャード・パワーズの最新訳書である。かつての人気作家が講師を務めるカレッジの「創作的ノンフィクション講座」を、アルジェリアから来た女子学生が受講する。彼女は故郷で大虐殺などを目の当たりにし凄惨な過去を持っているにも拘わらず、常に明るいオーラを発し周囲を光りで充たすような女性だ。この明るさと優しさは生まれ持った「幸福の遺伝子」のなせる業ではないか? その謎を解明し遺伝子操作を可能にすれば、人間はみんな幸福になれるのではないか? 幸福は相対的なものではないが、科学操作されたものを幸福と呼べるだろうか?−−生命倫理に踏みこみつつ、文学と創作の可能性についても探っていく刺戟的な一冊。あの有名なゲノム学者やノーベル文学賞作家や大物女性司会者と思しき人物も登場し、読者の心をくすぐる。 =木原善彦訳(猫)
−−「今週の本棚:幸福の遺伝子=リチャード・パワーズ・著」、『毎日新聞』2013年07月21日(日)付。
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