覚え書:「書評:海を渡った人類の遥かな歴史 ブライアン・フェイガン著 東郷えりか 訳」、『東京新聞』2013年07月21日(日)付。




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海を渡った人類の遥かな歴史 ブライアン・フェイガン著 東郷えりか 訳

2013年7月21日


◆太古の航海 その理由探る
[評者]関野吉晴=探検家
 大航海時代、世界一周の途中で客死したマゼランの航海を描いたツバイクの『マゼラン』は秀逸だった。現代に比べて大航海時代の航海がいかに苦難に満ちたものであるかを語っている。
 しかし本書は、それより遙(はる)か以前の我々の祖先たちがなぜ舟を造り、なぜそれまで馴染(なじ)んでいなかった海に繰り出したのかを考証する。東南アジア、地中海、インド洋、北大西洋アリューシャン列島から太平洋にいたるまで、航海の歴史を掘り起こしながら、舟も残っていない、文献も遺構もない太古の時代の航海について探る。
 人類が大海原を生活の場にし、舟や筏(いかだ)で航海を始めたのは比較的新しい時代だと思われて来たが、それでは説明のつかない活動もあるからだ。例えばホモサピエンスがヨーロッパや中国に進出する以前、五万年前にはオセアニアに進出している。アジアの大陸と陸続きになったことがないオセアニアにどのように渡って行ったのか。
 著者は子供の時から海になじみ、ヨットに乗って大西洋に漕(こ)ぎ出したりしている。そのため海の描写が生き生きと、具体的に描かれている。海の専門用語もわかりやすく解説している。
 二○○四年以来、アフリカを出た人類がどのようにして日本列島にやって来て、日本人が形成されたのかを探る旅を私もした。様々なルートを通って来たが、南方から海を航海して来たグループもいると考え、自力で天然素材だけでカヌーを作り、インドネシアから日本まで航海した。太古の航海者と同じようにGPSやコンパスを使わず、人力と五感、島影と星を頼りに四七○○キロを航海して沖縄に着いた。
 航海者たちは好奇心からではなく、海岸での暮らしや漁業を支える自然環境が安定していなかったため、漁場をめぐる争いや食糧不足に生存を脅かされ、人々は常に移動していた、と著者は語る。日本列島に到着した人類も、そんな人口圧や環境変動で移動を余儀なくされた人たちだと、私も思う。
 Brian Fagan 英国生まれの人類学者。著書『歴史を変えた気候大変動』。
河出書房新社・3045円)
◆もう1冊
 アリス・ロバーツ著『人類20万年遙かなる旅路』(野中香方子訳、文芸春秋)。アフリカで誕生した人類が世界に拡散した足跡を追う。
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