覚え書:「書評:2011 危うく夢見た一年 スラヴォイ・ジジェク 著 長原豊 訳」、『東京新聞』2013年07月21日(日)付。



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2011 危うく夢見た一年 スラヴォイ・ジジェク 著 長原豊 訳

2013年7月21日


◆抗議し始めた人々
[評者]平井玄=批評家
 「最良の者たちがことごとく信念を見失い、最悪の者たちが並々ならぬ情念に満ち溢(あふ)れている」という詩人イェーツの言葉を、ジジェクは引いている。東欧と西欧の境目で育った思想家は、ロシア・イコンの光る眼を感じさせる。
 カイロのタハリール広場、ロンドン北郊の騒乱、ギリシャの蜂起、マンハッタンの公園占拠、そして大震災に続く反原発運動と騒乱が地球を駆け巡った二○一一年に「危ういまでに夢見た」著者が、その最中で書き綴(つづ)った考察である。さらに暗転、空洞を埋めるように噴き出すナショナリズムレイシズム、宗教主義を予見して、書名の年がいったい何の<始まり>だったのかを執拗(しつよう)に語っている。
 「抗議者たちは、一九九○年に崩壊した共産主義者ではない。もしそうだとすれば、彼らがシステムによって脅かされている共(コモン)−を気にかけているというただ一つの意味において。本当の夢想家は、ちょっと化粧直しすれば物事が同じように進むと考えている連中だ。抗議者は、悪夢から醒(さ)めたのである」
 「敵は資本主義だ」と占拠された公園の群衆の中で著者は吼(ほ)える。新自由主義ヘーゲルの「世界精神」になったという。驚愕(きょうがく)の解答はなんと「プロレタリア独裁」である。ただし意味は空欄にしてある。この問いに答えよと、読む者に呼びかけるのである。
 Slavoj Zizek 1949年、スロヴェニア生まれの思想家。著書『暴力』など。
(航思社・2310円)
◆もう1冊 
 アラン・バディウほか著『1968年の世界史』(藤原書店)。世界同時的に歴史が転換した年を内外の識者が解読。
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