覚え書:「今週の本棚・新刊:『吉本隆明と「二つの敗戦」=とよだもとゆき・著』」、『毎日新聞』2013年08月25日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『吉本隆明と「二つの敗戦」=とよだもとゆき・著』

毎日新聞 2013年08月25日 東京朝刊

 (脈発行所・1575円)

 吉本隆明が3・11後も反(脱)原発を批判したことに関し、違和感を覚えた人も多いだろう。さまざまな吉本論でそのことに真正面から対峙(たいじ)したものはあまり見受けられない。

 正確に言うと、吉本は原発促進派ではない。反核・反原発運動に、絶対の正義をかざして誰をも巻き込もうとする党派主義、それを隠してなびくソフト・スターリニズムを見て、激しく批判してきたのだ。著者はその吉本の方法論が、第二次世界大戦の敗戦直後に組み立てられた思考の原点に基づいているのを見る一方で、吉本が「核エネルギーの統御」と生活圏での原発稼働を短絡的に結びつけたことも冷静に分析する。吉本の思想形成の原点から丹念に彼の思考の方法論を押さえてたどるだけに、著者は吉本の原発論における飛躍と晩年の「引き裂かれ」を見逃さない。最終的に、吉本が科学技術を相対化していないという視点にたどりつく展開は迫力がある。

 吉本への感謝と批判を経たうえで近代の超克として、人間の「生」を贈与として受け止める著者の新たな発想が提示されている。それは吉本が晩年提唱した「存在の倫理」を深める試論として注目される。(古)
    −−「今週の本棚・新刊:『吉本隆明と「二つの敗戦」=とよだもとゆき・著』」、『毎日新聞』2013年08月25日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130825ddm015070027000c.html




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吉本隆明と「二つの敗戦」―近代の敗北と超克
とよだもとゆき
脈発行所
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