覚え書:「今週の本棚・新刊:『魯山人の世界』=白崎秀雄・著」。『毎日新聞』2013年08月25日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『魯山人の世界』=白崎秀雄・著

毎日新聞 2013年08月25日 東京朝刊

 (ちくま文庫・1050円)

 生前は「この上なく嫌い」だったが、死後に「地下の魯山人(ろさんじん)が仕掛けて来る蠱惑(こわく)にしたたかまどわされ、酩酊(めいてい)されつづけている」とまで豹変(ひょうへん)したという著者による芸術論集。

 魯山人が「近代ではただ一人の天才」と確信する理由として、書画、陶芸、漆芸、染色、料理など活躍した分野の幅の広さを挙げる。確かに、マグマが噴き出るような表現意欲を満たすため、自らの信じる美の世界に飛び込んでいく姿は圧倒的だ。

 そして、魯山人の造形力の根源は書を通じて鍛え上げた、自在に引くことができる「線」にあると主張。その基盤に、敬愛する顔真卿(がんしんけい)や良寛の懸腕直筆を身につけた、と解説している。

 ひじを浮かして筆の穂先を垂直に動かすこの筆法は、大変な腕力が必要だが、穂先が紙と垂直に接し鋭く自在な線を引くことができる。線を引く能力の高さを「線の名手」と名付けて賞賛している。

 師を持たず、古典を通じて学んだ魯山人。「温故知新」という言葉を好んだ事実も考えさせられる。

 傲岸不遜、毒舌で知られた魯山人芸術への再考を迫っている。そのヒントが詰まった渾身(こんしん)の作だ。(霧)
    −−「今週の本棚・新刊:『魯山人の世界』=白崎秀雄・著」。『毎日新聞』2013年08月25日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130825ddm015070026000c.html


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