覚え書:「書評:『山月記』はなぜ 国民教材となったのか 佐野 幹 著」、『東京新聞』2013年09月15日(日)付。

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【書評】

山月記」はなぜ 国民教材となったのか 佐野 幹 著

2013年9月15日


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◆正解主義の問題抉る
[評者]伊藤氏貴=文芸評論家
 国語教科書における特定教材の定番化に対する批判は以前からあった。教師たちは、自分が学生の時に学んだ教材で同じことを繰り返しているという。それのどこが悪いのか訝(いぶか)る向きもあろうが、国語教育の目標は今、文章から一つの「正解」を導き出す力から、自分なりの読みを他人に伝えることのできる力へと大きくシフトしつつある。定番の一つ「山月記」で言えば、李徴の「欠けたところ」とは何かだけを問い、「人間性」という「正解」へ導くのが従来の指導だった。
 こうした「正解主義」に対する批判自体は新しいものではないが、佐野は綿密な調査に基づき、「山月記」における「正解」がいつどのように定まったのかをつきとめ、それに対する批判史を整理することによって問題点を剔抉(てっけつ)し、さらには指導におけるその解決の糸口を示す。
 こうした指導の変化は、教室内部に留まらず、文学作品の受容という大きな問題にも繋がっており、必ずしも教育に関心がなくとも十分読むに値する。そもそも文学をどう読むかは、われわれが学校の授業で受けた方法によるところが大きいのだから。
 ただし、もし佐野が根源的な国語教育改革を目指すなら、そもそも「山月記」を用いなければならないのか、さらには高校国語で文学教材を用いなければならないのか、が次の課題になるだろう。
(大修館書店・2310円)
 さの・みき 1976年生まれ。現在、岩手県立一関第二高等学校教諭。
◆もう1冊 
 中島敦著『山月記・李陵』(岩波文庫)。人間が虎に変わるという中国の変身譚に取材した「山月記」などの作品集。
    −−「書評:『山月記』はなぜ 国民教材となったのか 佐野 幹 著」、『東京新聞』2013年09月15日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013091502000170.html




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「山月記」はなぜ国民教材となったのか
佐野 幹
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