覚え書:「書評:日本のナイチンゲール 従軍看護婦の近代史 澤村 修治 著」、『東京新聞』2013年09月15日(日)付。



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日本のナイチンゲール 従軍看護婦の近代史 澤村 修治 著

2013年9月15日

◆証言、逸話で立体的に
[評者]森清=労働研究家
 大河ドラマ「八重の桜」の主人公新島八重は日清、日露の戦争で軍の予備病院において「篤志看護婦」として活動した。明治二十三年、夫の新島襄が逝去した後に日本赤十字社社員となり、「篤志看護婦人会」に属し、看護学講習を受けた後、看護婦育成にも当たった。生計は別の仕事(主に茶道)で立てながらの心意気であった。近代に乗り遅れまいと、日本が看護婦養成を急いでいた頃だ。
 本書は、八重をも含む日本赤十字社の関連資料と看護婦たちの手記を基に、明治半ばから第一次大戦を経て太平洋戦争が終わる昭和二十年までを探究し、従軍看護婦の活動と役割を明らかにする。
 傷病者は敵味方なく救護することを基本思想とし、しかし軍の管理下で活動するために「天皇の看護婦」の性格を持つ日本赤十字社の「救護看護婦」は、国と軍に不可欠の存在だった。昭和末年の資料によれば赤十字看護婦の殉職者は千百十八名という。意外に少ないと思う。しかし戦地での苦難な状況下で働いたことは言うまでもなく、数々の証言や逸話から看護のドラマが立体的に再現される。
 戦後に新生した日本赤十字社は、先の3・11など災害時の救護で存在感を示しているが、超高齢社会での役割を考える時期に至っていないか。現在の赤十字看護師が政治や行政の枠を超えて高齢者の「救護」にも尽力することを期待したい。
図書新聞・1890円)
 さわむら・しゅうじ 1960年生まれ。評伝作家。著書『宮沢賢治と幻の恋人』。
◆もう1冊 
 水井潔子・水井桂著『従軍看護婦物語』(光人社NF文庫)。日中戦争で中国戦線に従軍した若い看護婦らの体験記。
    −−「書評:日本のナイチンゲール 従軍看護婦の近代史 澤村 修治 著」、『東京新聞』2013年09月15日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013091502000169.html


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日本のナイチンゲール―従軍看護婦の近代史
澤村 修治
図書新聞
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