覚え書:「書評:混浴と日本史 下川 耿史 著」、『東京新聞』2013年09月22日(日)付。



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【書評】

混浴と日本史 下川 耿史 著

2013年9月22日

◆禁じられた性の享楽
[評者]岡村民夫=法政大教授
 著者は名高い性風俗史研究家。『公衆浴場史』や武田勝蔵の先行研究を踏まえた本書は、日本の入浴文化の通史として読めるが、やはり性との関係を重視したところに特色がある。古代における禊(みそ)ぎや温泉地の宴を「歌垣」と重ね、性行為をともなった混浴と解釈したり、奈良時代における「施浴」(衆生温浴を提供する仏教的慈善活動)を混浴と推理したりするのは、独自の説といえよう。
 もうひとつの特色は、公衆浴の歴史に施政者ないし上流階級の社会規範的論理と庶民の享楽的論理との併存や抗争を見て、混浴をもっぱら後者の営みとして熱っぽく語っている点である。江戸時代に関して、公認の吉原遊郭の地位を脅かす「湯女(ゆな)風呂」(私娼窟(ししょうくつ))を幕府が取り潰(つぶ)したせいで、かえって江戸市中の「入り込み湯」(混浴銭湯)が男たちの欲情を誘い、寛政の改革以降、混浴禁止令が連発され、田舎の温泉の混浴が旅人の話題になったと論述するあたりは本書の山場(やまば)に違いない。随所に配された時代ごとの混浴風景の図絵や写真もありがたい。
 贅言(ぜいげん)すれば、海や川での禊ぎや温泉プールブームが論じられているだけに、海水浴をスルーしている点がやや惜しいと思う。海水浴こそ、歌垣の近代的再生ではないだろうか。今後、温泉における混浴復興があるとすれば、案外、水着着用の方向になるかもしれない。
筑摩書房・1995円)
 しもかわ・こうし 1942年生まれ。風俗史家。著書『盆踊り 乱交の民俗学』。
◆もう1冊 
 山崎まゆみ著『だから混浴はやめられない』(新潮新書)。世界各地の混浴温泉地のルポ。江戸期の銭湯事情も解説。
    −−「書評:混浴と日本史 下川 耿史 著」、『東京新聞』2013年09月22日(日)付。

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