覚え書:「記者の目:在特会ヘイトスピーチ違法判決=小泉大士」、『毎日新聞』2013年10月24日(木)付。

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記者の目:在特会ヘイトスピーチ違法判決=小泉大士
毎日新聞 2013年10月24日


 大音量の街宣活動で京都の朝鮮学校を中傷した「在日特権を許さない市民の会」(在特会)側に、京都地裁は今月7日、約1226万円の賠償と街宣活動の禁止を命じた。民族や出自を理由としたヘイトスピーチ(憎悪表現)は「人種差別であり違法」とした画期的な司法判断だ。東京・新大久保などで同様のデモを取材してきたが、聞くに堪えない罵詈(ばり)雑言は明らかに「表現の自由」の範囲を逸脱していると感じてきた。在特会側は控訴したが、判決は当然であり、これを機にヘイトスピーチの横行に歯止めがかかることを期待したい。

 判決によると、在特会メンバーらは2009年12月−10年3月、京都朝鮮第一初級学校に押しかけ、「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「朝鮮人は保健所で処分しろ。犬の方が賢い」「ゴミはゴミ箱に」「ぶち殺せー」などと怒号を浴びせた。学校が京都市の許可を得ないまま隣接する公園を運動場として使っていたことを非難するためだったという。

 ◇威圧的な言動泣き出す児童

 彼らが撮影した街宣の映像はインターネット上で公開されている。一度見れば、いかに悪質で威圧的な言動だったかが分かる。校舎内には多数の児童や教職員がいた。窓やカーテンを閉めたり、音楽の音量を上げたりしたが防ぎきれず、低学年の児童の多くが恐怖のあまり泣き出したという。

 在特会側は、自分たちの行為は憲法21条が保障する表現の自由の範囲内で、差別的であっても「意見表明」として許されると主張した。

 これに対し判決は、一連の言動が国連の人種差別撤廃条約が禁止する「人種や民族的出身などに基づく区別、排除」に該当すると指摘。在特会側が訴えた公園の違法な使用を解消する意図は「表面的な装いに過ぎない」と退け、彼らの本質的な目的は差別の扇動だったと認定した。威圧的な態様からも公益を図る目的があったとは到底認められないとし、メンバーらの発言は「下品かつ侮蔑的」であり「意見や論評というよりいわゆる悪口」と厳しく批判した。

 ネット上では在特会の支持者たちが「不当判決だ」と主張している。「裁判長は在日だ」などという書き込みすらあった。賠償額が高額であることなどから「在特会側にボディーブローのようにじわじわと効いてくる」(警視庁幹部)という見方もあるが、ヘイトスピーチデモの沈静化にどこまでつながるのか、現時点でははっきりしない。

 ◇知ってほしい現場の実態
 では、どうすればいいだろうか。できれば現場に足を運び、多くの人にデモの実態を知ってもらいたい。新大久保では大勢が「殺せ、殺せ、朝鮮人」「新大久保を更地にしてガス室をつくるぞ」などと叫び、「良い朝鮮人も悪い朝鮮人も殺せ」と記したプラカードを掲げる人までいる。デモ参加者を上回る人々が抗議に押しかけ、機動隊を含めれば500人から1000人近い集団が路上を埋め尽くす。双方から飛び交うのは怒号と罵声。極めて異様な光景だ。

 カウンターと呼ばれる抗議側に暴力的なイメージがあるからか「どっちもどっち」という意見も聞くが、傍観したままでいいのだろうか。現実に出ている被害から目を背けてはならない。泣き叫ぶ京都の児童の背後で、数多くの人々が心を痛め、涙を流していることを知る必要がある。

 現行法では不特定多数に向けられるヘイトスピーチ自体を取り締まることはできず、今後は法規制の是非を巡る議論が活発化するだろう。この問題はこれまで「表現の自由」の観点から議論されることが多かったが、今回の判決は在特会の街宣を「悪口」に過ぎないと断じている。彼らの行為自体は、表現の自由によって守られるべき言論には値しないということだ。ただし、立法で規制した場合は当局による恣意(しい)的な運用への懸念もあり、私自身も考えが定まっていない。

 だが、表現の自由を重視するあまりに思考停止に陥っていては、ヘイトスピーチはなくならない。「表現の自由を守るためにこそヘイトスピーチを処罰すべきだ」と主張する東京造形大の前田朗教授は「対策は規制か否かの二者択一ではない」とも言う。私も同感だ。刑事罰でなくても、例えば社会的な批判や行政指導といった形で、憎悪の連鎖に歯止めをかけることだってできるはずだ。そのためには、何よりも「差別は決して許されない」という社会的な合意を形成する必要がある。見て見ぬふりをするのではなく、一人一人が差別の問題に目を向けてほしい。
    −−「記者の目:在特会ヘイトスピーチ違法判決=小泉大士」、『毎日新聞』2013年10月24日(木)付。

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http://mainichi.jp/opinion/news/20131024k0000m070133000c.html


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