覚え書:「書評:海の武士団 水軍と海賊のあいだ 黒嶋 敏 著」、『東京新聞』2013年11月24日(日)付。

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海の武士団 水軍と海賊のあいだ 黒嶋 敏 著

2013年11月24日


◆中世の多様な海の慣行
[評者]渡邊大門=歴史研究者
 著者は豊富な研究業績を持つ気鋭の中世史研究者。本書は海を舞台にして、そこに生きる村上水軍など「海の武士団」の姿を中世(鎌倉−織豊期)全般を通して描く。さらに海の武士団と権力との関わりや多様な海の慣行を論じており、新鮮な視点を与えてくれる。
 たとえば、船が難破して上陸し、積荷が現地の人々に奪われた場合はどうなるのか。中世において漂着船の積荷は、「無主(持ち主のいないもの)」となり、その土地のものにできるという。つまり、奪われた積荷は、戻ってこないのである。これを「寄船慣行」という。寄船とは漂着船である。積荷は寺社の造営費用などに充てられた。
 また、船が入港する場合、「津料(つりょう)」という税が課された。一般的に、津料は港の施設維持費・使用料と捉えられているが、それだけではない。他国からやってきた船は立場が弱く、さまざまな言い掛かりをつけられ、積荷が強奪される危険性があった。津料はそれを回避するため負担されたという。
 そこにあるのは、「ヨソモノ」を危険から守る「ローカルの論理」である。他国から来る人々は、危険を避けるため津料などを負担した。それらは税でなく、ローカルの論理に基づく在地慣行だったのである。
 鎌倉−室町期までは海の武士団と幕府・守護などが持ちつ持たれつの関係を維持していたが、ローカルの論理はやがて危機にさらされる。その契機となったのは、強大な権力を持つ戦国大名の登場である。津料の徴収をめぐり紛争が起こると、統治者である戦国大名はローカルの論理を規制せざるを得なくなった。やがて、その動きは豊臣秀吉の「海賊停止令」へと繋(つな)がる。
 たしかな史料と先行研究に基づいた豊富な事例とその展開は、実にわかりやすい。本の帯には、同じく海に注目した中世史家・網野善彦氏を意識して「網野史学の先へ」と記されているが、看板に偽りはない。広く読まれることを期待したい。
講談社選書メチエ・1680円)
 くろしま・さとる 1972年生まれ。東京大助教。著書『中世の権力と列島』。
◆もう1冊 
 高野澄著『歴史を変えた水軍の謎』(祥伝社黄金文庫)。村上・九鬼水軍の活動史や、水軍・海賊を制した武将の歴史の謎を解く。
    −−「書評:海の武士団 水軍と海賊のあいだ 黒嶋 敏 著」、『東京新聞』2013年11月24日(日)付。

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