覚え書:「みんなの広場 忌まわしい世が復活するのか」、『毎日新聞』2013年12月23日(月)付。+α

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みんなの広場
忌まわしい世が復活するのか
無職 86(奈良市

 特定秘密保護法成立の5日前、本紙「今週の本棚」で「ある北大生の受難−国家秘密法の爪痕」(上田誠吉著)が紹介された。「大東亜戦争」勃発直後、軍機保護法違反の容疑で北海道帝国大学生の宮沢弘幸さんと米国人教師夫妻が逮捕された事件である。

 宮沢さんが旅行中の船で聞いた海軍飛行場のことを夫妻に話したことが軍事機密に当たるということだったが、非公開の裁判で逮捕理由も全く不明。飛行場の存在も広く知られていたが、まさに「何が秘密とされているのかが秘密」という体制下で起きた。そして、宮沢さんは敗戦後に釈放されたが、拷問と過酷な獄中生活で27歳で亡くなった。

 当時、身に覚えのないことで憲兵特高警察に逮捕された。私の先輩の兄も突然逮捕されたが、その理由が分からず、先輩は一夜で髪がすべて抜けた。この北大生の話は決して珍しくなかったのだ。こんな経験や記憶のない世代の世になって、あの忌まわしい時代が復活するのだろうか。
    −−「みんなの広場 忌まわしい世が復活するのか」、『毎日新聞』2013年12月23日(月)付。

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特定秘密保護法に言いたい:理由分からず逮捕される 元長崎大学長・土山秀夫さん
毎日新聞 2013年12月21日 東京朝刊

 ◇土山秀夫さん(88)

 1942年ごろだったと思う。長崎医科大付属医学専門部の学生だった兄が運動会の写真を撮影したところ、16枚のうち1枚に軍事施設が写っていたとして、スパイの容疑で憲兵隊に抑留された。学校近くの小高い丘の上に高射砲陣地があり、そのふもとが写っていたらしい。写真屋に抜き打ちで憲兵が踏み込んで、フィルムを片っ端から調べたのだった。

 そこに高射砲陣地があることは公表されていなかったし、兄も全然知らなかった。翌日、母が「偶然写ってしまっただけで、スパイではない」と訴えて釈放された。治安維持法や軍機保護法でがんじがらめにされていた戦時中、「逮捕された人間がなぜ逮捕されたのかが分からない」ということが、しばしばあった。

 特定秘密保護法案を読んだ時、兄のことを思い出した。この法律も秘密の範囲が極めてあいまいだ。極端なスパイ行為ではなく、日常のささいなことでも引っかかりかねず、本人も何が引っかかったのかが分からないということもありうる。

 秘密指定基準のチェック機関も付け焼き刃だ。第三者的な諮問機関でチェックするというが、信用できない。集団的自衛権の行使や国家安全保障会議の設置を巡る諮問機関でも、安倍晋三首相は自分の息のかかった人ばかりを集めている。

 こんな大政翼賛的な諮問機関を乱造する首相を見たことがない。特定秘密保護法は欠陥だらけであり、廃止にするしかない。【聞き手・樋口岳大】=随時掲載

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 ■人物略歴

 ◇つちやま・ひでお

 原爆投下翌日に長崎市に入り入市被爆被爆者の救護などをした。1988〜92年、長崎大学長を務めた。
    −−「特定秘密保護法に言いたい:理由分からず逮捕される 元長崎大学長・土山秀夫さん」、『毎日新聞』2013年12月21日(土)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20131221ddm041010033000c.html




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