覚え書:「今週の本棚・新刊:『国家と音楽家』=中川右介・著」、『毎日新聞』2013年12月29日(日)付。
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今週の本棚・新刊:『国家と音楽家』=中川右介・著
毎日新聞 2013年12月29日 東京朝刊
(七つ森書館・2940円)
二つの世界大戦と東西分裂を経験した二十世紀は、音楽家にとっても艱難(かんなん)の世紀であった。ヒトラーやスターリンら独裁者が先導する全体主義ほど、個人の尊厳や表現の自由といった芸術の根源と激しく相反するものはないだろう。刃向かえば命を落とすかもしれない極限状況で、音楽家はどう行動したのか、本書は描出する。
フルトヴェングラーは、「ドイツ音楽にとっては優しく気前のいい庇護(ひご)者だった」ヒトラーのナチ式敬礼に応じず、握手のために右手を差し出し、ささやかな抵抗を試みた。スターリン政権下を生きたショスタコーヴィチは、オペラで「耽美(たんび)主義的形式主義者」と批判され強制収容所送りの瀬戸際まで追い詰められた。
だが後に、前者はナチスドイツで指揮活動を続けたことで、後者はスターリン讃歌(さんか)ともいえる「森の歌」を作曲したことで批判されてしまう。そんな非情な世紀の末、バレンボイムはイスラエルとパレスチナの和解のために宗派や国籍を超えたユースオーケストラを結成した。二十一世紀に本格化するこの活動にこそ、音楽が開く希望の地平線が見えてくる。(広)
−−「今週の本棚・新刊:『国家と音楽家』=中川右介・著」、『毎日新聞』2013年12月29日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20131229ddm015070045000c.html