覚え書:「みんなの広場 寒空の下、原発作業員の思いは」、『毎日新聞』2014年01月23日(木)付。


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みんなの広場
寒空の下、原発作業員の思いは
無職・63(滋賀県湖南市


 本紙の連載企画「青い鳥を追って」の最終回「原発から五輪特需の東京へ」を読み、なんともやるせない思いがした。

 廃炉作業が本格化した福島第1原発で作業を請け負う会社の社長によると、雇って数カ月しかたたない従業員5人から「東京の建設現場に行くので辞めます」と言われたという。日当1万3000円だったが、東京はさらに8000円高いらしい。2万5000円出る仕事があるとの情報も。
 五輪特需によって現場から人が流出しつつあり、作業の質の低下が指摘されるが、指示を出すだけで現場に来ない東電や元請けの社員の姿に「やってられない」という。当然だ。
 このまま流出が続いて作業員不足が深刻になれば、廃炉、除染作業はどうなるのか。現政権は原発を重要なベース電源に位置づけようとし、福島原発の惨状などなかったように再稼働に向けて動いている。冬空の下、作業に取り組む人たちはどんな思いで仕事をされているのだろうか。
    −−「みんなの広場 寒空の下、原発作業員の思いは」、『毎日新聞』2014年01月23日(木)付。

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青い鳥を追って:/7止 原発から五輪特需の東京へ
毎日新聞 2014年01月08日 東京朝刊


(写真キャプション)除染作業が行われている福島第2原子力発電所近くの海岸。除染や原発の現場から作業員が東京へ流出し始めている=福島県富岡町で7日

 ◇作業員、福島に見切り

 40年かかるといわれる廃炉作業が本格化した東京電力福島第1原子力発電所。通称「イチエフ」で作業を請け負う福島県いわき市の会社社長、菅野一郎さん(35)=仮名=は昨年10月、雇って数カ月しかたっていない従業員5人から切り出された。「東京の建設現場に行くので、辞めます」

 予感が当たった。

 昨年9月、ブエノスアイレス安倍晋三首相が東京五輪招致に向けて熱弁をふるった。「福島第1原発について私は皆さんに約束します。状況はコントロールされています」。テレビを見た菅野さんは「なにを言ってやがる」と思った。「ならばなんで汚染水が出てんだよ」。間もなく東京招致が決まると、不安がよぎった。「東京の建設工事が増えると、人が流れるな」

 菅野さん自身も原発で働くが、休憩所や喫煙所で「東京」が話題になるようになった。「イチエフより東京にダンプを出す方がもうかる」「(被ばく)線量がパンク(法定限度に到達)したら東京に行けばいい」

 菅野さんが5人に払ってきた日当は各1万3000円。構内は8000円で働く人もおり、条件はいい方だと思っていた。ところが5人の話では、東京はさらに8000円高いという。

 福島では以前から、危険性の高い廃炉作業より、除染作業に人が集まる傾向がある。国直轄の除染作業の場合、危険手当と福島県最低賃金で日当約1万5500円が保障される。

 だが、その除染の現場からも人が流出しつつある。双葉郡などで除染に従事するいわき市の男性(47)は昨年10月半ば、同僚から「宿舎は千葉で、日当が2万5000円も出る仕事がある」と聞いた。小学1年の息子がおり、上京するか悩む。「家族とは離れたくないが、子育て資金が稼げる。もし1日3万円出ることになったら、作業員の大移動が起きるんじゃないか」

 背景には、深刻な建設作業員不足がある。1997年に685万人だった全国の作業員数は、長い不況から2012年は503万人に減少。ところが昨年来、景気の回復基調や安倍政権の国土強靱(きょうじん)化政策で建設工事が増え、3兆円の経済波及効果が見込まれる五輪関連工事も来年度から東京で本格化する。都内の建設関連の求人倍率(求職者1人当たりの求人数)は昨年11月時点で4・54倍。「人手不足で都内の労務費は急騰している」と大手ゼネコンの幹部は証言する。

 事故から2年9カ月たった福島第1原発では「パンク」したベテラン作業員たちが次々と現場を離れている。危機感を抱く東電は昨年11月、作業員の労務単価を1人当たり1万円増やすと発表したが、菅野さんは冷ややかだ。「どうせ『中抜き』され、末端には落ちてこないよ」

 東電は元請け発注段階の労務単価を明確に公表せず、何重もの下請け構造でいくら抜かれていくのか知りようもない。菅野さんは元請け段階の単価を「5万円くらい」とみるが、不満は口にしない。「代わりはいくらでもいる」と言われるのがオチだからだ。

 もともと双葉郡内で飲食店を営んでいたが、原発から20キロ圏内にあり、再開の見通しは立たない。「どうせなら地元の復興のために働こう」。12年5月に仲間と建設会社を興した。これまで雇った作業員は延べ約100人。秋に辞めた5人は関東の出身で「県外から来る連中の目的はたいていカネだから」。脱法ハーブを吸って錯乱し警察署に駆け込んだ若者もいた。第1原発では昨年9月以降、ホースの誤接続などの作業ミスが相次ぐ。作業員の質の低下が指摘されているが、菅野さんによると、現場で東電や元請けが作業員を指導する姿はあまり見られないという。

 原発に来て2度目の冬。同業者から「東京に人を出さないか」と誘われても「復興が先」と断っている。防護服の下に厚い防寒具は着込めず、寒さに耐えながらの作業が続く。指示を出すだけで現場に来ない東電や元請けの社員が、線量の低い屋内で休む姿を見かけると「やってられない」と思う。「報われない状況が続けばどうしますか」と問うと、こう答えた。

 「そん時は、おれもよそで仕事を探すっかな」【前谷宏】

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 戦後の経済成長で豊かさを手にした日本。長い停滞をはさみ、政府や企業は再び「成長」を追う。だが、現場では資源が失われ、人々は疲弊し始めている。メーテルリンクの戯曲に登場する貧しいチルチルとミチルの兄妹は、幸せをもたらす青い鳥を追って長い旅をした末、自分たちの飼っていたハトこそ青い鳥と気づく。私たちのそばにも、青い鳥はいるのかもしれない。=おわり
    −−「青い鳥を追って:/7止 原発から五輪特需の東京へ」、『毎日新聞』2014年01月08日(水)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140108ddm041040115000c.html







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