覚え書:「特定秘密保護法に言いたい:政府の情報隠し、暴走危惧−−次女をシリアで失った元記者・山本孝治さん」、『毎日新聞』2014年01月25日(土)付。

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特定秘密保護法に言いたい:政府の情報隠し、暴走危惧−−次女をシリアで失った元記者・山本孝治さん
毎日新聞 2014年01月25日 東京朝刊


 ◇山本孝治さん(78)

 1945年3月、9歳だった私は大阪郊外の長尾(大阪府枚方市)に疎開していた。大阪大空襲で街が燃え、空が赤くなった光景を覚えている。私は「鬼畜米英」を憎み悔し涙を流した。あの戦争は何だったのか。敗北は勝利と伝えられ、私は軍国少年となった。選別された思想や情報だけを与える洗脳だった。

 2012年8月、ジャーナリストの次女、美香(当時45歳)がシリア内戦取材中に命を落とした。娘は「事実を知らせることで戦争を止める。世界を変える」という信念を持っていた。戦地の市民がどんな生活をし、どう虐げられているか。「知ることが何より大切」と考えていた。

 問題解決に必要なのは武力ではない。市民一人一人が多様な考えに耳を傾け、事実に基づき議論すること。私が戦争体験から学び、そして美香が信じたことでもある。

 銃撃時に持ち去られた美香のカメラやポシェットは今も戻らない。シリア政府側が「都合が悪い」と闇に葬ったのかもしれない。事実を知ることができないのはつらい。

 そもそも、沖縄返還を巡る日米密約も10年に民主党政権下で公式に認められるまで存在しないことになっていた。特定秘密保護法でさらに「不都合な事実」が隠されるのではないか。そして30年、50年先に、再び政府が情報を隠し戦争へと暴走する後押しをするのではないかと危惧する。

 安倍晋三政権は「決める政治」を勘違いしている。物事を決めるには議論と情報が必要だ。声を上げ続けなければならない。【聞き手・春増翔太】=随時掲載

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 ■人物略歴

 ◇やまもと・こうじ

 1935年生まれ。元朝日新聞記者。「山本美香記念財団」を設立し、若手記者の育成に取り組む。山梨県都留市在住。
    −−「特定秘密保護法に言いたい:政府の情報隠し、暴走危惧−−次女をシリアで失った元記者・山本孝治さん」、『毎日新聞』2014年01月25日(土)付。

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