覚え書:「今週の本棚・この3冊:人生=山田太一・選」、『毎日新聞』2014年01月26日(日)付。


        • -

今週の本棚・この3冊:人生=山田太一・選
毎日新聞 2014年01月26日 東京朝刊

 <1>オリーヴ・キタリッジの生活(エリザベス・ストラウト著、小川高義訳/ハヤカワepi文庫/987円)

 <2>老残/死に近く 川崎長太郎老境小説集(川崎長太郎著/講談社文芸文庫/1470円)

 <3>生きる。死ぬ。(玄侑宗久、土橋重隆著/ディスカヴァー・トゥエンティワン/1575円)

 <1>アメリカ東部の小さな町の物語。13の短篇。しかし表題のオリーヴがいつも作品の中心にいるわけではない。出て来ない短篇もある。同じころ同じ町にオリーヴも生きていたということがばらばらな話をつなぎとめている。オリーヴはやがて老いてくるが、はじめは中年女で「骨太な大柄で頭一つ抜け出して背が高く」夫によれば「ひとに謝ったことがないやつ」である。無論夫にもだ。その夫ヘンリーは「ほどほどに暮す者が強いのだ」という穏やかな男で、よくまあそんな二人が別れずに生きているなあと思うほどだが続いている。ヘンリーがいつになく燃えて終って離れるや「ふーう」とオリーヴは溜息(ためいき)をつく。そんな細かな食い違いを作者は説明ぬきで書く。それが町の人たちのさまざまな物語にも及ぶので、全部を読み終えると実に多くの人生の細かな現実に接したような感慨がある。とりわけ「薬局」という作品がすばらしい。

 <2>これは二人だけの物語である。私小説である。六十一歳の小説家が三十一歳の女性と結婚をする経緯をたぶん事実に近く描いている。老人ももっと頑張って可能性を、というような話ではない。孤独な二人がそれぞれの切実さで身を寄せ合ってしまったのである。その人生をこう読めというような名付けを潔癖に排して語っているので、私も余計なおしゃべりはひかえたい。登場人物は二人だけだけれど、読みようによっては広くも深くも人生を語っていると思う。夫人は作家の八十三の死までを見送った。

 <3>対談である。他でも近いことは耳にしていたが、ガンはその人の性格や歴史や生き方に対応して肺に来たり胃に来たり大腸に来たりするというのである。肉体の敵だから心は関係がない、やっつければいいのだというものではない、ガンも身の内の変化だからそこにはきっと増殖してしまった根拠があるはずだ、必要な変化かもしれない、治そうとしない人が良くなってしまうこともある、治らないまでも、その人の生きる姿勢を根本から変える力があるかもしれないと土橋さんがきり出し、玄侑さんが待ってましたというように受けて「心がつくるガンは心で治せる」とガンがいかに概念にとり囲まれて、その具体性に向き合えていないかを説いて行く。それが宗教についての楽しい蘊蓄(うんちく)にひろがり、日本文化の二重性「不二」の思想に通じて行く、といってもなんのことか分からないでしょうが、とても面白い本でした。
    −−「今週の本棚・この3冊:人生=山田太一・選」、『毎日新聞』2014年01月26日(日)付。

        • -



http://mainichi.jp/shimen/news/20140126ddm015070029000c.html





Resize0102

オリーヴ・キタリッジの生活 (ハヤカワepi文庫)
エリザベス ストラウト
早川書房
売り上げランキング: 46,616

生きる。死ぬ。
生きる。死ぬ。
posted with amazlet at 14.01.29
ディスカヴァー・トゥエンティワン (2013-12-20)
売り上げランキング: 22,856