覚え書:「書評:友 臼井吉見と古田晁と 柏原 成光 著」、『東京新聞』2014年01月26日(日)付。
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友 臼井吉見と古田晁と 柏原 成光 著
2014年1月26日
◆全集当たり起死回生
[評者]森彰英=ジャーナリスト
価値ある本を出し続けてきた筑摩書房の創業者とその協力者の評伝である。半世紀余り前の知的エリートの物語でありながら、今も心を揺さぶられるベンチャービジネス戦記として読んだ。
二十世紀の初頭、信州に生まれた二人は中学の同期生で共に東大を卒業。古田晁は父親から貰(もら)った当時破格の十万円で出版社を設立。戦時色が濃くなる中でポオル・ヴァレリイ全集や永井荷風の小説を出版する逆張り商法をつらぬく。特に太宰治の才能を愛して彼が衝撃的な死を遂げるまで寄り添ったが、鎮魂の意味をこめて出版した全集がドル箱となった。
戦前は教職のかたわらコンテンツ作りに外部から協力していた臼井吉見は、戦後いち早く創刊した雑誌「展望」の編集長として斬新な企画を次々と実現するとともに自らも筆を執り、評論家としての地位を固めた。だが経営は危機に瀕(ひん)し、古田が高利の手形の決済に追われていた時、臼井が出した「現代日本文学全集」の大企画が起死回生のヒットとなった。
このような記述が続く本書はむしろIT世代に読まれるのではないか。そう評者が思うのは、近ごろ出版業界に限らず働き盛りの世代が、ネットや携帯電話がなかった時代にどのようにして熱い人間関係を保ち、どんな酒の飲み方をしたかについて盛んに話を聞きたがるからである。その答えが本の中に詰まっている。
(紅書房 ・ 2100円)
かしわばら・しげみつ 1939年生まれ。筑摩書房の元編集者で、社長も務めた。
◆もう1冊
塩澤実信著『戦後出版史』(小田光雄編・論創社)。戦後の雑誌やベストセラー、作家と編集者らの群像を描く。
−−「書評:友 臼井吉見と古田晁と 柏原 成光 著」、『東京新聞』2014年01月26日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014012602000157.html
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