覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 家族なき高齢者の増加 『責任もって見守る』システム急務」、『毎日新聞』2014年02月05日(水)付。





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くらしの明日
私の社会保障
家族なき高齢者の増加
「責任もって見守る」システム急務
山田昌弘 中央大教授

 先日、病院勤務の医師と話していた時のことである。私が家族を研究していると言うと「いま、家族がいない入院患者が増えて困っている」という。引き取り手のいない孤立死のことかと聞くと、それだけではなく、回復して退院する時に問題が出てくるそうだ。
 今までは、入院患者には必ず、同居か別居かにかかわらず、何らかの家族、つまり、配偶者や子ども、時にはきょうだいやおい、めいがいて、病院側は彼らに退院後の生活の注意点を説明していた。説明する患者を責任を持ってみてくれる「家族」が存在するのが当然だった。だが最近は、配偶者も子どももいない「孤立高齢者」の退院後の生活指導を誰に託したら良いかが問題になっているという。
 地域には民政医院はいるが、「責任をもって見守り、生活行動を指示する」ことまでは手が回らない。彼の病院では、ケースワーカーが患者の退院後のケアを気遣っているというが、来院が前提。そもそも「病院に行け」と言ってくれる家族がいないから問題が起こるのだ。
 家族がいない1人暮らしの高齢者も、元気な時は友人や近所の人と生活を楽しむことができるだろう。だが、入院したり事故に遭ったり、お金の問題が起きた時など、いざという時に責任を持ってその人の世界津について決断し処理するのは、今のところ家族に頼らざるを得ない。
 高齢者に限らず、家族がいない孤立した人の生活責任を誰が負うかに関しては、誰も答えを見つけることはできていない。親しい友人がいたとしても、どこまで介入していいかわからないし、成年後見制度の適応者は著しく狭い。日常的に元気な人に、予防的に成年後見をつけるわけにはいかないのだ。
 今後、家族のいない高齢者が増えることは確実である。今の70歳前後の高齢者の未婚率は約3%。平均きょうだい数は4・5人で、おいやめいも多い。1人暮らしでも、いざとなった時に責任をもって対処してくれる家族がいる確率は高いはずだが、それでも孤立死がかなり出てきている。
 50代前半になると、未婚率は約15%。離別者も多い。きょうだいの数も2人強。親戚関係も疎遠になっている。親が亡くなれば、身近な家族が一人もいなくなる高齢者は、今後加速度的に増えていく。
 「いざとなった時に責任を持ってくれる誰か」を、個人的に見つけておく努力も必要だろうが、それだけでは不十分だ。「家族難民」とも呼ぶべき人々を出さないためにも、孤立した人々を「個人として責任をもってみる」システムを早急に作ることが求められている。
ことば 孤立する高齢者の増加 2010年版高齢者白書によると、60歳以上の男女に対し困った時に頼れる人がいるかを聞いたところ、全体の96・7%が「いる」と回答。「いない」は3・3%だった。男性や1人暮らし世帯、健康状態の良くない人や暮らし向きが苦しい人が、孤立傾向が高かった。
    ーー「くらしの明日 私の社会保障論 家族なき高齢者の増加 『責任もって見守る』システム急務」、『毎日新聞』2014年02月05日(水)付。

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