覚え書:「書評:むしろ素人の方がよい 佐瀬 昌盛 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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むしろ素人の方がよい 佐瀬 昌盛 著

2014年2月16日


◆防衛トップ人間力
[評者] 平川祐弘=東京大名誉教授
 戦後八十人出た防衛省(庁)のトップには「言語に絶する惨状を呈した」大臣もいたという。民主党一川保夫田中直紀の両相は仕事が何かわからなかった。野田首相が三人目に元制服組の森本敏を起用するや世間はその人事にほっとした。となると今後は「玄人」待望論になる。
 だが元防衛大学校教授の著者は意外にも「むしろ素人の方がよい」として、坂田道太防衛庁長官(在任一九七四〜六年)の歴代最長七百四十七日の仕事ぶりを描いた。自民党文教族議員の坂田だが、防衛庁トップとしてよく勉強し、国際情勢を見据え、自衛隊が小さくても大きな役割を果たすよう防衛政策を転換する。米国防長官とは親身に交際する。
 坂田は教育者としても自衛官に影響を与えた。国民と自衛隊の親和関係の増進を考え、「町で自衛官をみかけたら、気軽に話しかけてみてください」と長官自ら広告を書き、新聞投書欄での批判には「お答えします。自衛権のための力は合憲です」と新聞に投書した。
 著者は先の『新版 集団的自衛権』では、法制局がいかに「国際法保有憲法上行使不可」という奇態な結論を出したかについて経緯を調べあげた。だがそんな不毛な神学論争と違い、敬愛の念をこめて書かれたこの評伝には、人間坂田が生きている。今後の日本の防衛大臣の必読書となるだろう。
 (新潮選書・1260円)
 させ・まさもり 1934年生まれ。防衛大学校名誉教授。著書『NATO』など。
◆もう1冊 
 ジョン・W・ダワーほか著『転換期の日本へ』(明田川融ほか訳・NHK出版新書)。難問山積の日本の針路を提示。
    −−「書評:むしろ素人の方がよい 佐瀬 昌盛 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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