覚え書:「書評:演劇の力 蜷川 幸雄 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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演劇の力 蜷川 幸雄 著

2014年2月16日

◆鬼才の青春期明かす
[評者]長谷部浩=演劇評論家
 この一月、作家古川日出男の飛躍と奇想にあふれた『冬眠する熊に添い寝してごらん』を蜷川幸雄が演出した。時空をまたぎ、自然の力を掘り起こす戯曲を大胆に視覚化する演出は衰えを見せない。
 これまでの蜷川の聞き書きは、演出論に傾いていた。それに対して本書は、三十二歳で演出家としてデビューする以前、しかも出自や思春期の伝記的な事実を明らかにする。この特異な才能を支える過剰なまでの自意識が、どのように育ったのかを描き出して興味深い。
 戦後間もない小学生の頃、近所の防空壕(ぼうくうごう)跡で、花模様の着物を着て、首に縄をくくりつけた死体を発見した。こうした衝撃的な事実も粉飾なく淡々と語っている。また、三十代で脳溢血(のういっけつ)で倒れた三番目の兄洋一は「酒飲みで遊んでばかりだが、仲間にいつも囲まれていた」と評し、「人生で楽しいことの分量ははじめから決まっているのだろう。いい人ほど早く使い果たしてしまう」と諦念を示す。感傷に満ちた回顧ではなく、自身をメスで切り裂くような強靱(きょうじん)さが、蜷川の身上である。青春期以降の挿話も充実している。聞き手は内田洋一。
 巻末には一九九七年から二○一三年まで公演パンフレットに収められた言葉を集成している。その束を読むと、稽古場の高揚感とともに、ひりつくような焦燥感までもが伝わってきた。
日本経済新聞出版社 ・ 2310円)
 にながわ・ゆきお 1935年生まれ。演出家。著書『千のナイフ、千の目』など。
◆もう1冊 
 高橋豊著『蜷川幸雄伝説』(河出書房新社)。蜷川の半生を追いながら、観客を魅了する演出術の秘密を探る。
    −−「書評:演劇の力 蜷川 幸雄 著」、『東京新聞』2014年02月16日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014021602000157.html





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