覚え書:「書評:地球外生命 長沼 毅・井田 茂 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。


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地球外生命 長沼 毅・井田 茂 著

2014年2月23日


◆身近に感じる宇宙の実態
[評者]中野不二男=ノンフィクション作家
 なるほどこういう考え方をするのかと、初めて納得した。
 宇宙の本を読んだ子供は、「生物はいるのでしょうか?」とか、ビッグバンやダークマターについて得意げに質問するが、大人の私はそういう空想と紙一重の禅問答には関心がない。しかし本書を読み、ちょっと変わった。
 海底火山付近に棲息(せいそく)する管状の生物チューブワームは、体内細胞の微生物が硫化水素と海水中の酸素でエネルギーを生むという。そのエネルギーでCO2からデンプンを作り出しているのだから、太陽光がなく有毒ガスに満たされた環境で光合成を営んでいることになる。また「ストレイン121」なる微生物は、滅菌温度の121度でも増殖することが確認されたという。
 極限環境でも悠々と営まれる生命活動の話を読むと、“紙一重”が現実の興味へと変化してゆく。なによりも文章が面白くてわかりやすい。たとえば鳥類の話である。八千メートル級の山々を飛び越えるのは、肺である「気嚢(きのう)」による酸素の利用効率が高いこと、筋肉があまり酸素を消費しないためだという。筋肉には「赤身」がない、という説明には、スーパーの“ささ身”のパックを見る目が変わってしまう。
 「水の量の条件で言えば、三十五億年以上前の火星は生命誕生にうってつけの場所だった」も、なるほどである。一九九六年に火星から飛来した隕石(いんせき)の中に、イモムシのような形をした微生物の細胞らしきものが見つかったという。これだけなら私の興味もまだ入り口なのだが、隕石が地球の大気圏に突入するとき、激しい熱にさらされるにもかかわらず、その中心部は四〇度ほど。しかも「隕石の中に入っていれば、放射線からも遮蔽(しゃへい)されています」という話には、もしかしたら地球の生命のはじまりは火星から…などと素人なりに考えたくなる。知ったかぶりの禅問答ではなく、大人が真面目に楽しめる、目からウロコの一冊だった。
 (岩波新書・756円)
 ながぬま・たけし 広島大准教授。
 いだ・しげる 東京工業大教授。
◆もう1冊
 自然科学研究機構編『地球外生命 9の論点』(講談社ブルーバックス)。立花隆佐藤勝彦ら十一人が地球外生命について考える。
    −−「書評:地球外生命 長沼 毅・井田 茂 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014022302000164.html





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