覚え書:「書評:激突の時代 品川 正治 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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激突の時代 品川 正治 著

2014年2月23日


◆戦闘軍体験者の九条
[評者]吉田司=ノンフィクション作家
 集団的自衛権行使を認める解釈改憲への動きが本格化しているが、本書はその対極にあって「憲法九条を守れ」と叫び続けた異色の財界人の遺言の書である。
 そもそも品川正治反戦平和の原点は日中戦争最前線での血みどろの「戦闘軍」体験の中にあるのだが、当時の日本軍の大半は北京など後方の大都市にいて行政支配する高級将校たちの「占領軍」に属していた。そしてこの戦闘軍と占領軍は戦後、中国の俘虜(ふりょ)収容所で「終戦」か「敗戦」かの戦争総括の違いをめぐって激しく対立したという。戦闘軍はもう二度と戦争殺戮(さつりく)はしたくない「終戦派」を形成し、占領軍将校らは将来もう一度リベンジの戦争をおこし皇国の恥をすすごうという「敗戦派」だった。
 その後、品川ら戦闘軍の面々は復員して日本国憲法九条の「戦争放棄」を読む。全員号泣した。これで日中双方の軍民すべての犠牲者が浮かばれる、と。
 そう、靖国神社で慰霊できるのは愛国主義的な皇国の魂だけだ。もっと広く日中韓・アジア全域の犠牲者を悼み、同時にいまの中国の軍事力肥大化にもアメリカの無人機攻撃(ロボット戦争化)にも反対できる力をもつのは九条の不戦の誓いの方である。九条は平和ボケの時代遅れではない。アジア大戦勃発の危機を救える唯一の理性的な希望の灯(あか)りなのだ、と品川は教えて逝ったのである。
 (新日本出版社・1995円)
 しながわ・まさじ 1924〜2013年。損保社長、経済同友会終身幹事などを歴任。
◆もう1冊
 辻井喬著『憲法に生かす思想の言葉』(新日本出版社)。九条を守るため敵を味方にする言葉を共有しようと語る
    −−「書評:激突の時代 品川 正治 著」、『東京新聞』2014年02月23日(日)付。

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