覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 人は誰でも間違える=本田宏」、『毎日新聞』2014年03月12日(水)付。


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くらしの明日
私の社会保障
人は誰でも間違える
目指すは安全なシステムか責任追及か
本田宏 埼玉県済生会栗橋病院院長補佐

 2月12日、政府は医療や介護関係の制度改正を一括して実施する法案を閣議決定し、国会に提出した。持続可能な社会保障制度を確立することを目指し、効率的で室の高い医療提供体制や地域包括システムなどを構築するための関連法の整備が目的だ。その中に、要因内で発生した医療事故の原因究明と再発防止に取り組む「医療事故調査制度」の創設も含まれた。
 国の事故調案は、2012年2月から13年5月までの、厚生労働省検討部会での議論がベースだ。医療機関は予期しない患者の死亡を国に届け出て必要な調査を実施し、国が新設する医療事故調査・支援センターは、医療機関や遺族から依頼があった場合、必要な調査をする。
 建前は医療事故の再発防止だが、報告書は遺族へ開示されるため、刑事訴追や民事、行政の処分につながりかねない。結果的に責任追及が可能となり、事故防止という本来の目的が達せられなくなるというという指摘が医療関係者から上がっている。1月に開かれた自民党特命委員会と厚生労働部会の合同会議でも同じ懸念が表明され、「医療事故調査・支援センターを見直すことなどについて、法律公布後2年以内に法制上の必要な措置を講じる」という文言が加えられる異例の事態となった。
 日本医療ジャーナリスト協会が00年、米国の医療の質委員会の報告書「TO ERR IS HUMAN(原文のまま)」を翻訳した「人は誰でも間違える−−より安全な医療システムを目指して」を出版した。この報告書では「患者の安全を守る基本は、毎日エラーが起こっていることを認識し、個人を攻撃して誤りを責めるのでなく、安全確保が可能なシステムに変更し、将来のエラーを減らすように専心すべきだ。エラーに焦点を当てた自発的で機密の守られる報告システムの確立が必要だ」と提言している。
 世界保健機関(WHO)が05年に作ったガイドライン草案も、医療事故を起こした医療従事者が報告しても処罰を受ける恐れを持たないように、患者や報告者、病院の個別情報を明かしてはならないと強調した。当然、医療事故の再発は防がなければならない。だからこそ、事故調査では個人の責任追及はしないというグローバルスタンダードを順守し、加えて先進国最低レベルに抑制した医療費と医師数の抜本的見直しもすべきだ。
 特定秘密保護法強行採決され、官僚や政治家は責任の所在を隠蔽できる恐れが高まる一方、過酷な労働現場に耐える医療者の医療事故に対して責任を問おうとする日本。明治の実業家である渋沢栄一が嘆いたこの「官尊民卑」の横暴を食い止めなければ、日本の医療崩壊も止まらない。
◇ことば 医療事故 医療現場での死亡事故は年約2000件発生し、医療訴訟が年800件ほど起きている。事故の真相を知りたい患者や家族と、捜査による医療の萎縮を懸念する医療者双方から、原因究明と再発防止に向けた新しい取り組みが求められていた。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 人は誰でも間違える=本田宏」、『毎日新聞』2014年03月12日(水)付。

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