覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 家族のあり方 政治が左右=湯浅誠」、『毎日新聞』2014年03月26日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障
家族のあり方 政治が左右
配偶者控除見直しの行方注視を
湯浅誠 社会活動家

 先日、若者の低投票率に関するニュースをテレビで見た。「自分の幸せと政治が結びつかない」という意見が多かったという。若者に限らず、こうした声は少なくない。
 これは自然なことである。日々の私的な生活に政府が露骨に介入するようなことは、誰だって勘弁してほしい。
 だが一方、私たちの日常生活が政治と無関係でいられないのも事実だ。
 典型的なのが「家族のあり方」だ。個人の選択の問題と思われるようなことが、実は政治から強い働きかけを受けている。家族のあり方を自由に選択したつもりでも、実は政治が道筋をつけていて、私たちはそれをなぞっただけということもある。
 結婚して妻となった女性がどう働くかは、夫の働き方や子どもの育ち方、ひいては家族のあり方に大きな影響を与える家族の重大事だ。妻は考える。
 結婚までに10年以上積んだ仕事のキャリアを生かしたい。でも、子どもの帰りは早いし、夫の帰りは遅い。延長保育は高いし、ベビーシッターは不安。それに、中途半端に働くくらいならパートの方がトク。子どものためにもその方がいい……。

 これは妻の自由な選択であり、その選択は尊重されるべきでだ。だが同時に、妻がパートを選択するよう、政治が道筋をつけているとも言える。
 妻の年収が103万円以下(月収約8・5万円)なら、妻には所得税がかからず、オットは配偶者控除を受けられる。だが、103万円を超えると控除額が減り、さらに103万円を超えると、妻にも社会保険料や健康保険料がかかるようになる。
 収入が増えるほど控除が減って、支払う税金が増えるなんて、金額以上に損した気分になりそうだ。月に8万円分働くのも15万円分働くのも、たいして変わらない気がしてくる。多くの妻がパートを選ぶ背景に、政治が決めた税制の影響があるとも言える。
 ただでさえ「母親は家で子育てすべきだ」という価値観は根強いのに、税制がさらに、結婚した女性が働く時のハードルを高くしていると感じる。にもかかわらず、夫の収入は増えないし、保険料や教育費は上がる一方。妻が働きに出なければならない圧力も強まっている。
 前からも後ろからも風を受けながら、進む方向を決めなければならない女性たちの苦しさは、男性にはなかなか想像できない。せめて、税制くらいは中立であるべきではないか。
 先ごろ、政府の経済財政諮問会議産業競争力会議の合同会議の場で、阿倍晋三首相が配偶者控除の見直しを指示した。今後の推移に注目したい。
ことば 配偶者控除 配偶者の年収が103万円以下の場合、所得税の課税対象額から38万円を差し引く。実質的な高額所得世帯の優遇で、既婚女性が年収の上限を気にして就労調整するため「女性の社会進出を妨げる」との批判もある。配偶者控除を廃止すれば、1兆円超の税収増が見込まれる。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 家族のあり方 政治が左右=湯浅誠」、『毎日新聞』2014年03月26日(水)付。

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