覚え書:「発信箱:まず対話から=小国綾子(夕刊編集部)」、『毎日新聞』2014年04月01日(火)付。

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発信箱:まず対話から=小国綾子(夕刊編集部)
毎日新聞 2014年04月01日

 「丸山真男手帖(てちょう)の会」主催の生誕100年記念講演会で、東工大教授の上田紀行さんがこんな話を披露した。「あなたが東南アジアの工場に派遣され、工場廃液の下流域で公害病が発生していると知ったらどうするか」という質問を毎年教え子にしているが、震災前は「何もしない」が圧倒的多数だった。ところが震災後は「告発する」が多数派に転じたという。原発事故後、組織内の同調圧力に屈しないことの大切さが浸透したのだろう。

 でも、いくら告発したい思いがあっても、行動に移せない人も多いのではないか。職場で一人声を上げ、仲間を増やし、事態を改善するためには、もっと身近な日々の積み重ねが大切ではないか。考えの異なる相手を前にして、黙するでも対立するでもなく対話する、作法や姿勢のようなもの。

 東京都知事選で田母神俊雄さんに投票した61万人を「若者の右傾化」で片付けたくなくて、「もっと多様な声を聞きたい」と尋ねて回ったことがある。外交問題憲法、経済政策……。対立覚悟で私の考えや迷いを打ち明け「異なる意見を知りたくて」と正直に伝えたら、誰もが誠実に冷静に考えを聞かせてくれた。取材後、ある人から「誘導的だったり偏った質問のない誠実な取材に感謝します」と丁寧にお礼まで言われ、驚いた。

 たとえ意見が違っていても対話し、理解し合いたいと願い、わかり合えない部分を残してもなお再び会いたいと考える−−私たちはそんなふうにゆるやかにつながっていくことはできないだろうか。丸山さんが若い世代に残した最後のメッセージは「横につきあいなさい」。今、異質な相手とつながるための言葉を持ちたい。 
    −−「発信箱:まず対話から=小国綾子(夕刊編集部)」、『毎日新聞』2014年04月01日(火)付。

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http://mainichi.jp/opinion/news/m20140401k0000m070158000c.html





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