覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 アメリカ家族の日本化?=山田昌弘」、『毎日新聞』2014年04月02日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障
アメリカ家族の日本化?
山田昌弘 中央大教授

日本社会でよくみられる現象が米国でも起きているーーという内容の本が最近、相次いで2冊翻訳され、話題になっている。
1冊は「親元暮らしという戦略」(キャサリン・S ・ニューマン著)。自立を重んじる米国では、成人すれば親から離れ、独立して生活するのが一般的だった。少し前までは、一度自立した後に失業や離婚などで親元に戻る若者を「ブーメラン族」とやゆしたりもしていた。
だが著者は、アコーディオンが蛇腹を広げるように自らの懐を広げて子供を受け入れる親と、そんな親に依存して生活する若者が、米国でも増えていると報告する。そんな家族を、著書では「アコーディオン族」と呼んでいる。
もう1冊は「ハウスワイフ2・0」(エミリー・マッチャー著)。米国社会といえば、女性も仕事での成功を目指すのが当然とみられているが、この本ではハーバード大卒など高学歴の女性が、キャリアを捨てて専業主婦となり、生活を楽しみながら趣味やボランティア、主婦であることを生かした起業をするようになった姿を描いている。
日本では、かつて私が「パラサイト・シングル」と呼んだように、成人後も親と同居するのが一般的で、学歴が高い女性でも結婚後は専業主婦になる女性が多いが、この2冊をみるお、米国でも日本と同じことが起き始めているようにも見える。
しかし、2冊を注意深く読むと、その背景にある問題が透けて見えてくる。
米国で親との同居が増えているのは、経済のグローバル化の影響を受けて雇用が不安定になり、自立して生活できない若者が増えているからだ。高学歴の専業主婦が出現したのは、キャリア女性も「ガラスの天井」と呼ばれる女性差別に苦しみ、さらにキャリアの仕事量が増え、仕事と子育てを両立しにくい状況が出てきているからである。
自立を重視する米国でも、経済的に不利な若者や、仕事と子育ての両立に困難を感じる女性が増え始めたから、親や夫などの家族に頼らざるを得なくなっているのだと言える。
日米両国に共通するのは、不安定就労をしている若者や子育て中の女性をサポートする社会保障制度が整っていないことだ。これらが整っている北欧などでは、親と同居する未婚者や高学歴の専業主婦が増えているという話は、まだ聞かない。
「米国でも日本と同じことが起きている」と単純に受け止めるだけではいけない。親と同居する未婚者や高学歴専業主婦が増えた背景にどんな問題があり、それをどう解決すべきなのか。この2冊は、それを考えるきっかけにすべき著作なのだ。

親と同居の未婚者
総務省統計局のリポート(2012年)によると、親と同居する若者未婚者(20〜34歳)の割合は、07年で約47%、12年で約49%と上昇傾向。親と同居する壮年未婚者(35〜44歳)も07年で約15%、12年で約16%と増加が続く。経済的な理由が背景にあるとみられる。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 アメリカ家族の日本化?=山田昌弘」、『毎日新聞』2014年04月02日(水)付。

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