覚え書:「書評:教誨師 堀川 惠子 著」、『東京新聞』2014年04月13日(日)付。

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教誨師 堀川 惠子 著

2014年4月13日


◆死刑囚に自己の煩悶重ね
[評者]森達也=映像作家
 拘置所から出てくる袴田巌さんの映像をテレビで見ながら、多くの人はいろんなことを考えたはずだ。僕もその一人だ。健康面においても精神面においても相当に危ういと数年前から聞いていたけれど、足どりや表情はしっかりしている。何よりもこうして姿を目にすることができたことが信じられない。それほどに死刑囚はこの国で閉ざされている。光すらも飲み込んでしまうブラックホールのように、彼らの情報はほとんど外部に出てこない。
 特に日本の死刑囚は刑が確定すると同時に、心情の安定をはかるためとの(ありえない)理由で、外部との手紙のやりとりや面会を禁じられる。まさしく特異点だ。二度と会うことはできない。でも例外はいる。家族。刑務官。そして教誨師(きょうかいし)だ。
 彼らは死刑囚に会うことができる。話すことができる。特に死刑囚の血縁でもなく業務でもない教誨師は、きわめて特別な位置にいる。
 本書は、ほぼ半世紀にわたって死刑囚の教誨を務めた浄土真宗の僧侶、渡邉普相の記録である。ただし教誨師にも守秘義務は課せられる。だから簡単には話をしてもらえない。著者は渡邉のもとに何度も通い、自分の死後に発表することを条件として、やっと話を聞くことができた。
 多くの死刑囚がいた。そのほとんどは既に処刑されている。つまりブラックホールに完全に吸い込まれた。でも渡邉は語る。一人の人間としての死刑囚たちの姿を。苦悩を。希望を。そして絶望を。
 一人ひとりは違う。当たり前だ。彼らは僕たちと何も変わらない。むしろ弱い。だからこそ渡邉は悩む。自分は何のために教誨を続けているのか。結局は無慈悲なシステムの歯車として機能しているだけなのではないか。その苦悩が死刑囚の苦悩と重なる。
 読み手もそこに自分を重ねてほしい。一緒に煩悶(はんもん)してほしい。著者のそんな願いが行間に滲(にじ)む。
講談社 ・ 1836円)
 ほりかわ・けいこ 1969年生まれ。ジャーナリスト。著書『死刑の基準』など。
◆もう1冊 
 免田栄著『免田栄 獄中ノート』(インパクト出版会)。死刑確定から三十一年後に再審無罪となった元死刑囚がつづった獄中の記録。
    −−「書評:教誨師 堀川 惠子 著」、『東京新聞』2014年04月13日(日)付。

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