覚え書:「書評:へるん先生の汽車旅行 小泉八雲、旅に暮らす 芦原 伸 著」、『東京新聞』2014年04月20日(日)付。

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へるん先生の汽車旅行 小泉八雲、旅に暮らす 芦原 伸 著

2014年4月20日

◆無鉄砲な素顔を発見
[評者]原口隆行=文筆家
 本書は、「へるん先生」と呼ばれたラフカディオ・ハーン、後の小泉八雲の軌跡を追って、<鉄道の時代>に列車を乗り継ぎながらのひとり旅をつづった、紛れもない紀行文である。なのに、いつもハーンが著者に寄り添っているような、さらにいえばその怪談世界ではないが、憑依(ひょうい)したような、そんな感懐にとらわれる。それだけ、著者のハーンに寄せる思い入れが深いということなのだろう。
 その行跡は、海外はアメリカからカナダ、日本では和歌山県の湯浅、横浜、松江、熊本、神戸、東京と広範囲に及ぶ。そして、ハーン自身の著作やかかわりのあった人たちの思い出話、評論などを彩り豊かに引用しながら、その行動や事績、人となりを浮き彫りにしてゆく。だから、本書は単なる鉄道紀行ではなく、優れた評伝であり、文芸評論でもある。
 日本でのハーンといえば、著述活動のかたわら松江中学や熊本第五高等学校や東京大学で教え教育畑を歩んだからか、謹厳実直な学者、古き良き日本を愛した作家といった印象が強い。だが、本書を読むとアメリカ時代のハーンはジャーナリストとして第一線で活動しながらも、明日の糧を考えないほど無軌道で無鉄砲、しかも放浪癖の強い性格の持ち主だったようだ。こうした、いかにも人間臭い一面を紹介したことも妙味の一つに挙げられよう。労作である。
集英社・1836円)
 あしはら・しん 1946年生まれ。「旅と鉄道」などの編集を経て作家に。
◆もう1冊
 ラフカディオ・ハーン著『新編 日本の面影』(池田雅之訳・角川ソフィア文庫)。日本の風物や旅を描いた文集。
    −−「書評:へるん先生の汽車旅行 小泉八雲、旅に暮らす 芦原 伸 著」、『東京新聞』2014年04月20日(日)付。

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