覚え書:「今週の本棚・本と人:『クラシックの核心 バッハからグールドまで』 著者・片山杜秀さん」、『毎日新聞』2014年05月18日(日)付。
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今週の本棚・本と人:『クラシックの核心 バッハからグールドまで』 著者・片山杜秀さん
毎日新聞 2014年05月18日 東京朝刊
(河出書房新社・1944円)
◇今だから書けた音楽家たち−−片山杜秀(かたやま・もりひで)さん
「大リーグのエースが投げてくる球を日本の辺境にいる人が打ち返せないかという気持ちで話していました」。音楽の教科書に載っているモーツァルトやバッハら大物音楽家9人を直球勝負に挑むように語り尽くす。
9人ともムック『文藝別冊』で特集された音楽家たち。聞き手となった編集者たちの質問に答えるインタビュー形式でまとめあげ、雑誌掲載時の原稿に加筆修正し、単行本化した。神童と呼ばれるモーツァルトを<刹那(せつな)の芸術>とし、<現代が起承転結や脈絡を失い、われわれが刹那的になればなるほどモーツァルトはリアリティを持って迫ってくる>。壮大なオペラ作品を多く残したワーグナーを<異分野統合の総合芸術に挑んで成果を出している>と評価、<人間が総合という観念に惹(ひ)かれているかぎり、ワーグナーは必勝者である>と結論付ける。
一方で各作品との個人的な出会いにも言及している。バッハは、小学生の頃に見ていた子供向けテレビ番組のBGMから知ったことを明かす。「現代の情報化社会の中で、クラシック音楽との出会い方という一つのサンプル記録集にはなったと思う」
毎回1時間程度のインタビューとは思えないほど濃密な内容だ。事前に質問事項が与えられていたわけではなく、その日取り上げる音楽家の名前ぐらいしか知らされていなかったという。「あまりストーリーは作らないで、いつも出たとこ勝負みたいでした」。多角的な視点からの分析が次から次へと展開し、行間からは話し言葉ならではの臨場感が伝わってくる。
音楽批評を中心に学生時代からフリーランスのライターとして活動。子供の頃から親しんできた近現代の音楽作品について執筆を求められることが多く、世間で有名な大物音楽家たちとは距離があった。「(大物音楽家に)そこまで深い思い入れはなかったけど、たくさんの球を打ち返さないと食えないという時に、少し好きなものを詳しく知る機会が仕事として訪れた」と振り返る。「来る仕事を断らずにやってきたためにおのずとネタが仕込まれていたことが、今回の本ができた理由の一つかな。若い時だと無理だったでしょうね」<文・須藤唯哉/写真・喜屋武真之介>
−−「今週の本棚・本と人:『クラシックの核心 バッハからグールドまで』 著者・片山杜秀さん」、『毎日新聞』2014年05月18日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20140518ddm015070039000c.html