書評:杉浦敏子『ハンナ・アーレント入門』藤原書店、2002年。

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杉浦敏子『ハンナ・アーレント入門』藤原書店、読了。公共性の復権、政治的なるものの再興、複数性(多様性)の擁護、労働の再考をキーワードに、アーレントの思想を現代に蘇らせる入門。思索を辿るだけでなく、彼女の思索が現代の課題にどのように応答するのかとの意識でその思想の内実を紹介する入門書。

本書は1章をフェミニズムアーレントに関して割いている。両立しがたい両者だが、自己内部の複数性という彼女の考えに立てば、差異を固定せず、アイデンティティーの偶然性と曖昧性を認めなければならない。

同時に身体の一義性とそれに対する抵抗不可能性を、「行為」と「言葉」が乗り越えるというアーレントの戦略は、フェミニズムの思想に刺激を与えるのではないかと著者は言う。あらかじめ真理を設定せず、自らの臆見を学ぶことを通じて「知」に近くづく戦略は有効ではないかと指摘する。



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 特定の生を強要されることのない自由は、自由主義の獲得した最大の価値であり、近代が要請する自由である。こうした自由と多様性の擁護を、社会の統一性の維持のために犠牲にすれば、全体主義への道を開いてしまうだろう。こうした価値を手放さず、いかに公共性といったものを考えることが可能だろうか。個人が個別の利害を越え、公的なものへの関心を深め、公的なものに対する配慮や責任を担うことはいかに可能か。人々が政治に期待するのは、私的利益の実現と私的福祉の確保ばかりであるというなかで、「本来の政治」、「本来の公共性」をいかに復権することができるのか。
    −−杉浦敏子『ハンナ・アーレント入門』藤原書店、2002年、200−201頁。

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ハンナ・アーレント入門
杉浦 敏子
藤原書店
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