覚え書:「書評:無縁旅人 香納 諒一 著」、『東京新聞』2014年05月18日(日)付。

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無縁旅人 香納 諒一 著

2014年5月18日


◆端正な捜査一課もの
[評者]香山二三郎=コラムニスト
 現代の警察小説は地方の警察やSIT、SAT等の特殊捜査班もの、公安警察ものまでバラエティに富んでいる。だがジャンルの花形といえば、やはり警視庁捜査一課もの。警察小説の妙は個性豊かな捜一刑事が織りなす息詰まる捜査劇にあり、という信者は少なくないはずだ。
 長篇『贄(にえ)の夜会』から八年ぶりの続篇に当たる本書は、まさにそんな捜一ものファンに向けられた一冊である。
 西武新宿線下落合駅に程近いマンションの一室で十六歳の少女の変死体が発見されるが、彼女はその部屋の住人ではなかった。やがてインターネットのコミュニティ・サイト−SNSを通じた男女関係や援助交際ネットカフェ難民の実態等が明らかになる。デカ長の大河内茂雄をはじめ、捜査に当たる強行班七係の面々も当初はまごつくが、被害者の義母の遺産をめぐるトラブルや被害者と元カレの因縁を手繰っていくうちに、犯罪絡みの背景が浮かび上がってくる。
 前作は猟奇殺人の捜査を軸に警察組織の闇までとらえる大作だったが、今回はヒネリ技を利かせた端正な仕上がり。現代の社会問題をえぐり出す辛口タッチ、悪事を赦(ゆる)さぬ大河内の硬派ぶり等、どれを取っても捜一ものの正統を往く。『孤独なき地』等、著者の警察活劇「K・S・P」(歌舞伎町特別分署)シリーズと読み比べてみるのも一興かと。
 (文芸春秋・1728円)
 かのう・りょういち 1963年生まれ。作家。著書『幻の女』『炎の影』など。
◆もう1冊 
 今野敏著『廉恥−警視庁強行犯係・樋口顕』(幻冬舎)。組織と家庭の間で苦悩する刑事の姿を描いたミステリー。 
    −−「書評:無縁旅人 香納 諒一 著」、『東京新聞』2014年05月18日(日)付。

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無縁旅人
無縁旅人
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香納 諒一
文藝春秋
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