覚え書:「川の光2 タミーを救え! 松浦 寿輝 著」、『東京新聞』2014年05月25日(日)付。


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川の光2 タミーを救え! 松浦 寿輝 著

2014年5月25日


◆東京を横断、成長の旅
[評者]井口時男=文芸評論家
 移住するクマネズミ一家の冒険を描いて著者の意外な新生面を開いた傑作『川の光』の続篇。とはいえ前作を読んでいなくても堪能できる。
 前作でも活躍したゴールデン・レトリーバーが稀少(きしょう)動物を売買する兄弟に誘拐された。心優しい彼女を救出すべく七匹の動物がチームを組む。頭脳明晰(めいせき)な小型雑種犬をリーダーに、わがままでおっちょこちょいなジャーマン・シェパード、前作の主人公だった小さなクマネズミ兄弟、誇り高い若きクマタカ、おきゃんなスズメ、そして酔いどれのドブネズミ。大小さまざま、ちぐはぐでちょっと頼りないこのチームが、東京横断の大遠征に出発するのだ。
 動物たちには大都会は危険がいっぱい。協力し合って困難を乗り越えながら、お互いの信頼が出来ていく。東京の地理や環境をきちんと踏まえているし、動物たちそれぞれの個性がくっきりと造形されているので、彼らの心理の動きにもリアリティーがある。読者ははらはらしながら、時々くすりとしたり、ほろりとしたりする。児童向けの設定だが、大人も十分楽しめる作品に仕上がっている。
 冒険の旅は成長の旅でもある。彼らは冒険を通じて、自由や責任、愛や友情といった人生の重要な徳目を学ぶのだ。なかでもジャーマン・シェパードの成長ぶりは読者の心を打つはずだ。
中央公論新社・2052円)
 まつうら・ひさき 1954年生まれ。小説家・詩人・批評家。著書『半島』など。
◆もう1冊
 キャスリン・ラスキー著『ガフールの勇者たち』(1)〜(15)(食野雅子訳・メディアファクトリー)。フクロウ王国の物語。
    −−「川の光2 タミーを救え! 松浦 寿輝 著」、『東京新聞』2014年05月25日(日)付。

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