覚え書:「病から詩がうまれる―看取り医がみた幸せと悲哀 [著]大井玄 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2014年05月25日(日)付。

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病から詩がうまれる―看取り医がみた幸せと悲哀 [著]大井玄
[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)  [掲載]2014年05月25日   [ジャンル]医学・福祉 

■懊悩の果てに辿りつく境地

 終末期医療に関わる著者の最新エッセー集。「看取(みと)りの医師」を自認するだけに、医療現場の現実や自らの来歴を語りつつ、自作の句や病との闘いを詠んだ先達たちの詩歌をあわせて紹介していく。終末期医療で自分が学んだことは、良寛が死に臨んで書いた書簡(「死ぬ時節には、死ぬがよく候」の一節がある)に尽きているという。
 「死」のさまざまな姿に接しているうちに、医師は哲学者、思想家、そして詩人になる。どの頁(ページ)にも人生の懊悩(おうのう)の果てに辿(たど)りつく境地が短文で語られている。「最良のかたみは、幸せそうな笑顔と笑い声」「誇りを感じさせることが終末期をよろめき歩く人への支え」「(患者は)私の中に生きているのだ」といった表現が看取りを受け持つ者が辿りつく死生観である。
 人はさまざまな糸と絡み合って生を紡ぐ。やがて「私」という糸もほどけるだろうと言い、「漠たる人生には、漠たる満足がある」との達観に読者は自らの像を重ねる。
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 朝日選書・1404円
    −−「病から詩がうまれる―看取り医がみた幸せと悲哀 [著]大井玄 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2014年05月25日(日)付。

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