覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 NPO弱体化の懸念=湯浅誠」、『毎日新聞』2014年06月18日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障
NPO弱体化の懸念
法人減税で租税特別措置見直し

湯浅誠 社会活動家

 世は決算期だ。私の関わってる一般社団法人は年間で十数万円の黒字を出し、法人税を納めそうだ。メンバー全員がボランティアということもあり、わずかな利益から納税することに釈然としないという声もあったが、国家財政難の折、わずかでも貢献できるのは喜ばしいことではないか、と私は意見した。
 さて、国の借金が1000兆円を突破する一方で、法人税の減税がほぼ決まりだと言う。法人税は1%下げると4700億円の税金がなくなる。減税して企業活動が活発化し、雇用が増え、全体の納税額が減税分を上回るなら結構な話だ。同時に、景気悪化時に税収の急激な落ち込みを防ぐためには、恒久的な代替財源が必要だ。そこで、特別に免除したり、税率を低く抑えてたりしていた部分に課税しようという動きが出てきた。しばしば取りざたされたのが、特定業種を過度に優遇していると批判の強かった租税特別措置だった。
 租税特別措置の仕組みは複雑で、財務省の資料を見ても、私のような素人にはわからないことが多い。私は漫然と、法人税減税で恩恵を受ける分野から調達するんだろうと思っていた。
 例えば、製造業は、法人税のシェア26%で約2・5兆円。法人税が1%下がると業種全体で1000億円超の利益増となる。他方、租税特別措置による控除額は約2000億円(いずれも2011年度)。法人税を2%下げる代わりに租税特別措置を廃止すると、業界全体としては「トントン」になる計算だ。
 実際は、租税特別措置は中小企業支援もあれば投資控除もあり、業種別で設定されているわけではない。ただ方向性としては、そうなるものだろうと思っていた。
 しかしここにきて、びっくりする話を聞いた。認定NPO法人のみなし寄付金や寄付金の損金算入特例が見直しの対象に挙がっているという。金額は両方合わせて約18億円。
 財政が厳しい中、小さいものでもかき集めてなんとか税収減を抑制したいという財務省の気持ちは、よくわかる。しかし、税制の構造改革を通じてゆがみを是正するというのならば、大きな恩恵を受けるところで調整するのが筋ではないだろうか。
 行政機能の縮小が避けられない中、認定NPO法人は行政の手の届かない福祉分野を新しい発想と行動力でカバーしてきたところが少なくない。法人税減税の返す刀でダメージを与えるべき相手ではないように思う。
 もし、業界団体の圧力の強弱によってある特別措置が温存されたり切り捨てられたりするのであれば、あまりにも露骨な利益誘導で「正義はいずこ」と言わざるを得ない。賢明な政治判断を期待したい。

法人税の引き下げ 法人の税負担を軽減して国際競争力を強化したい政府・与党が、来年度に実施する方針を固めた。国税地方税を合わせた実効税率(東京都では35・64%)を中国(25%)や韓国(24・2%)並みにする構えだが、代替財源の確保など課題も多い。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 NPO弱体化の懸念=湯浅誠」、『毎日新聞』2014年06月18日(水)付。

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Yuasa

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