覚え書:「今週の本棚・この3冊:ペリー=保谷徹・選」、『毎日新聞』2014年06月22日(日)付。

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今週の本棚・この3冊:ペリー=保谷徹・選
毎日新聞 2014年06月22日 東京朝刊

 <1>ペルリ提督 日本遠征記 全4巻(ペルリ著、土屋喬雄、玉城肇訳/岩波文庫/品切れ)

 <2>幕末外交と開国(加藤祐三著/講談社学術文庫/994円)

 <3>黒船が見た幕末日本−−徳川慶喜とペリーの時代(ピーター・ブース・ワイリー著、興梠一郎訳/阪急コミュニケーションズ/品切れ)

 一八五四年三月三一日、日米和親条約が締結されて今年で一六〇年である。この立役者は米国東インド隊司令長官ペリーであった。『ペルリ提督 日本遠征記』(ホークス編)は、米国議会上院版(全三巻)の遠征記本編にあたる第一巻の全訳である。ペリーは来日前から記録の編纂(へんさん)を企図し、遠征隊員に日記や覚書の提出を求めた。日本開国の使命を帯びたペリーの活躍ぶりを描いたこの公式報告書は、一九四八年に岩波文庫におさめられた。近年では全三巻の完訳版、遠征記本編の新訳版も出されている。

 ペリー来航と日本の開国を論じたものとしては石井孝や三谷博が知られ、加藤祐三『幕末外交と開国』も著者の長年の主張を要領よくまとめていて読みやすい。「発砲厳禁の大統領命令」をうけたペリーと「避戦主義」の幕府が、外交交渉にもとづく「交渉条約」を結ぶ。列強との戦争に敗北してより不平等性の強い「敗戦条約」を結んだ中国と比べ、平和的交渉による国際関係を樹立し得た幕府が決して「無能無策」ではなかったことが強調された。確かに決定的な戦争を避けたことは重要なポイントだが、攘夷(じょうい)論者徳川斉昭(なりあき)(水戸)を政権につなぎとめるため、武力に訴えても通商を拒絶するという無謀な方針が再三唱えられたことを直視する最近の研究もある(麓慎一『開国と条約締結』吉川弘文館)。攘夷主義との対決はもう少し長い目で見るべきなのかもしれない。

 ワイリーの『黒船が見た幕末日本』は辛辣(しんらつ)で明快だ。ペリー一族の歴史は「海軍への奉仕の歴史そのもの」だった。ペリーは、蒸気海軍の建設に力を注ぎ、米墨戦争で本国艦隊を指揮した。テキサスを併合した米国が太平洋岸カリフォルニアを獲得し、広大な領土を手に入れた戦争である。拡張主義者ペリーはさらに、「イギリスを打ち負か」し、「太平洋汽船航路のための港を確保する目的」で日本を目指し、威圧的な艦隊を準備した。蒸気軍艦に石炭補給は欠かせない。琉球や日本、小笠原での寄港地の確保は、新興国アメリカが北太平洋を手中にするワンステップであった。ベトナム反戦活動家だったワイリーは、かかる米国の「ペリー以来の独善的な干渉主義」を批判しつつ、「良き敗者」となった戦後日本まで見通して描いている。しかし、「良き敗者」としての「柔和な役割」が大きく変化しようとしている今、ワイリーはどのような歴史の教訓を示そうとするのだろうか。
    −−「今週の本棚・この3冊:ペリー=保谷徹・選」、『毎日新聞』2014年06月22日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140622ddm015070082000c.html





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