覚え書:「書評:法然の思想 親鸞の実践 佐々木 正 著」、『東京新聞』2014年06月22日(日)付。
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法然の思想 親鸞の実践 佐々木 正 著
2014年6月22日
◆「人間解放」でつながる師弟
[評者]武田鏡村=作家
法然と親鸞の師弟関係と念仏信仰は、それぞれを開祖と仰ぐ浄土宗と浄土真宗の各教団によって、これまで分断されてあまり顧みられることはなかった。ようやく最近になって、二人のつながりを検証する機運が起こっている。本書は、その一冊となる。
法然の念仏信仰の教えは、日本仏教で革命的なものであった。それまで貴族や僧侶など一部の特権的な人にのみ開かれていた仏教が、一般の人びとに解放されたからである。それは貧者や女性、病者、職業上で差別されていた人、これらを含めた「愚人・悪人」といわれる人に対しても、念仏を唱えれば、仏は誰一人差別することなく平等に救ってくれるという徹底した「信仰の解放」であった。
法然の弟子となった親鸞は、生涯をかけて真摯(しんし)に法然の教えを継承して、「悪人こそが救いの対象である」と言明する。
二人に共通するのは、人間に対する悲しみを持った優しさである。この優しい眼差(まなざ)しこそが、二人を結びつけ、不屈な信仰の道を歩ませたのである。
当然ながら既成仏教からの弾圧を受けるのであるが、二人はそれさえもバネにして、あくまでも人間が平等に救われる信仰を追究する。その意味で二人の信仰は「人間解放」という思想的な意義がある。
本書で気になることは、後世に書かれた各種の伝記の史料的な批判がないことである。たとえば親鸞が元摂政関白の九条兼実(かねざね)の娘と結婚したのは、法然が唱えたものの実行しなかった「肉食妻帯」を命じられて実践したものである、という伝説をそのまま受け入れていることである。
こうした伝記を踏まえながら二人の教説を補強するのは、いささか難点があるように思われるのだが、主体的な信仰を求め続けた法然と親鸞が格闘しながら真正面から念仏信仰に取り組んだ姿勢を、本書が丹念に追っているところは注目に値するであろう。
(青土社・2592円)
ささき・ただし 1945年生まれ。長野県・萬福寺住職。著書『親鸞再考』など。
−−「書評:法然の思想 親鸞の実践 佐々木 正 著」、『東京新聞』2014年06月22日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014062202000181.html