覚え書:「書評:太陽の棘とげ 原田 マハ 著」、『東京新聞』2014年06月22日(日)付。

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太陽の棘とげ 原田 マハ 著

2014年6月22日


◆対立を解く美術の力
[評者]嶋岡晨=詩人
 山本周五郎賞受賞作『楽園のカンヴァス』もそうだったが、著者のキュレーター体験、美術的造詣は本作でも充分(じゅうぶん)に生かされ、物語の奥行きを深めている。
 話は終戦直後、沖縄駐留米軍の精神科従軍医ウィルソンの回想として展開され、芸術家村の画家たち(タイラほか)との親交を通し、勝者と敗者(日本人)の間に真の友情はあり得るかを問い、両者を繋(つな)ぐ絵画の重い役割が表現される。
 反抗的な画家ヒガ、横暴な米軍将校、タイラの美しい妻メグミら脇役のからみも効果的だが、「出会う者みな兄弟」との沖縄的人情、画家を支援するウィルソンの善意などのかもすヒューマンな温(ぬく)もり、すなわち美術を介し共有する感動が、勝・敗、優・劣の意識を超えて、作品全体からぬくぬくと伝わる。
 小説の主題はつまり、人間相互の対立を溶かす<太陽>的なものの働き、理解交流をめざす願望にある。そうした問題の解決法は、甘いといえば甘いだろう。が、この一つの人間的な理想のけんめいな提示、文学的主張を、軽々しく否定しさる資格など誰にあろうか。人生への暗い解釈、絶望感を、深刻ぶって強調するだけが、文学ではあるまい。
 巻末の「謝辞」によれば、作者は現存する精神科医から直接取材したようで、さすがに文章に実感がこもっている。今日貴重な<善意>の文学に拍手したい。
 (文芸春秋・1512円)
 はらだ・まは 1962年生まれ。作家。著書『本日は、お日柄もよく』など。
◆もう1冊 
 原田マハ著『楽園のカンヴァス』(新潮社)。スイスの大富豪が所有する絵の真贋判定をめぐるアートミステリー。
    −−「書評:太陽の棘とげ 原田 マハ 著」、『東京新聞』2014年06月22日(日)付。

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